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褪ロラ
6

 結局のところ、形がどうあれ、これを使って戦う自分の姿をイメージすることが大切なのだそうだ。そうは言っても、僕はこのぶよぶよのゼリーみたいな物体で、どう戦えばいいのか全く想像できないのだけど。想像ができない以上、やはりこれは武器としては失格なのだろう。

 「俺が問題だって言ってんのは、それが一つの形に安定してねーってこと」
 「……、ああ……、なるほど」

 そう言われた通り、僕の”心”は絶えず蠢いては震えていて、何か定まった形態に落ち着くことがない。みんなの武器は、いつ見ても当然のように同じ形をしていたのに。

 「その、思い出づくりをすれば、このぐにゃぐにゃも安定するかな」
 「そうなればいいとは思ってるけど、やっぱ、断言はできねえな」

 安心するには少し頼りない肯定だけれど、その正直な頼りなさには好感が持てた。不安は残っても、本当のことを教えてもらえて良かった。

 「俺も今までいろんなやつを見てきたけど、お前みたいなのは初めてだからさ」
 「うん……、でもわかったよ。とにかく安定を目指せばいいんだ。……最終的にこれがどんな形に落ち着いたとしても、イメージさえできれば、僕も戦えるんだから」

 それだけで、心が晴れる心地がした。
 最初からロヴィは心配しなくていいと言ってくれていたんだったっけ。いろんなことが重なって、それどころではなかったけど、今こうして落ち着いて話をすることができてよかった。



 *****

 「有り合わせで悪いな」

 そう断りながら出された食事は、とても有り合わせには見えないくらいに見栄えのするものだった。僕もロヴィも驚きながら席に着いた。失礼かも知れないが、この人の料理でこんなにきれいなものが出てくるとは思いもしなかった。

 「うっま……!?」
 「……わ、おいしい……」

 実際に食べてみて、ロヴィは更に感激していた。僕はあまり味覚に自信がないのでよくわからないけれど、でも美味しいとは思う。

 「うわ、うわ、うま……。すげえ、何食ってもちょーうめえ……」
 「はは、そりゃよかった」

 惜しみない賞賛にエルドさんもくすぐったそうに笑いながら、僕たちの向かいに座った。

 「飯が美味いと幸せな気分になるなー」
 「嬉しいよね。僕は料理できないから、すごくありがたいと思う」
 「こんなんで良きゃ、いつでもつくってやるよ」

 とても和やかな昼食のひとときだった。
 ――その瞬間までは。



 カタンと小さく音がして、振り返るとアキくんが居間に入ってくるところだった。
 僕たちには目もくれず、ふらふらと流し台の方へ歩いていく。コップを手に取って蛇口を捻る音がした。どうやら水を飲みに起きて来たらしい。

 「…………」

 目の下のクマが痛々しかった。部屋にこもりきりで、ずっと寝ていたのだとばかり思っていたけれど、眠れていないのかも知れない。



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