褪ロラ
5
「本来なら、友達っつーのはなるもんじゃなくて、気付いたらなってるもんなんだよな」
「難しいね……」
「一緒に過ごすことが絶対条件じゃね? 会ったことも、話したこともない奴とは友達になれねーだろ」
「ロヴィとお話すればいいの」
「……多分」
「何を?」
「さあ?」
早速行きづまってしまった。
顎に手をやって、考えるような仕草で黙り込んだロヴィを僕は見ていた。
「……とりあえず」
「うん」
「手、出せ」
ロヴィの肩越しに見える窓ががらりと開いて、ぼさぼさに髪を乱したエルドさんが顔を覗かせた。眩しそうに目を眇めて、左手で庇をつくっている。僕らに目を留めると、訝しげな表情で更に赤い瞳を細めた。
「……こんなとこで何やってんだ、お前ら」
「「握手」」
僕たちは友達になるべく、第一歩を踏み出した。
*****
「腹減ってないか?」
「減った!」
「減ってる、かも」
何か食事を用意してくれるというエルドさんの言葉に、僕たちは一も二もなく喜んでその背を見送った。
「手伝わなくていいのかな」
「いいよ。まだ話は終わってねーもん」
ことん、と首を傾げながらロヴィは僕を振り返る。
「いいか? 何度も言ってるけど、それはお前の心、……みたいなもんだ」
「うん」
「だからな、胡散臭ぇ精神論に聞こえるかも知れねーけど、こんなもんは気の持ちようでどうとでもなるわけよ」
「って言うと……」
確かに、持ち主の精神と武器の状態が密接に関係しているのだから、気の持ちようという言葉にも頷けるけれど。
「たとえばほら、これ。刃渡りこんだけしかないだろ」
これ、と言いながらロヴィはいつものナイフをどこからともなく取り出した。かなり大きめで武骨な形をしてはいるが、ナイフはナイフ。その刃渡りは、広げた手のひらよりも少し長い程度だ。
「でも、俺はこれで何でも切れる」
「……何でも?」
「何でも」
自信満々だった。
なるほどそういえば、ロヴィと”影”の戦う様子を見て疑問に思ったことが何度かあった。ナイフの刃渡りと切断面の大きさが、不釣り合いでちぐはぐだったのだ。
「でかいのも長いのも、ぐにゃぐにゃして柔らかいのも、俺が切れると思えば絶対に切れる。……意味、わかるか?」
「えっと……? ……じゃあ、ひょっとしてそれがナイフの形をしている意味は、あまりない……」
すると、ロヴィは猫のように目を細めて愉快そうに笑った。
「おっ、冴えてんじゃねーか。そういうことだよ。だから俺言ってるだろ、形なんてどうでもいいって。……まあイメージのしやすさも大事だから、どうせなら武器って感じの形の方がいいんだろうけどさ」
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