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褪ロラ
2

 付き合えと言われて連れ出されたのは、支部の裏手にある庭だった。
 こんな場所があるなんて知らなかった。
 庭園というほどの規模ではないけれど、見たことのある花が何種類か植えられているようだ。走り回ることはできないが、座ってひなたぼっこをすることくらいは出来そうだ。

 「いい天気だなー、まぶしー!」
 「ここで何するの」
 「んー、秘密の特訓?」
 「え」
 「なんつって。ちょっとしたアドバイスっつーか……」

 僕の困惑をよそに、ロヴィは柔らかく微笑んでいる。

 「やっぱ、一回ちゃんと話しとこうと思って」
 「話?」
 「お前ぼーっとしてて何にも聞いてこねーんだもん」
 「えっ」
 「だから俺から話すな」

 ――ちょっとそこに直れ。そう言われて、僕はロヴィの真正面に立たされた。
 足元の芝生が、僕の靴を柔らかく受け止めた。見れば踏みつけた芝生一本一本が靴の端から僅かにその先を覗かせて、精一杯の抵抗のように四方八方に跳ねている。でも、庭は一面の芝生だ。足をずらして置き直したところで、結局別の一本を下敷きにすることになる。彼らを踏まずにこの場に立つことは至難だろう。申し訳ないなと思いながら、僕は靴の下を見つめていた。

 「…………っ!?」

 ばちん! と、両手で勢いよく顔を挟まれた。何が起きたか一瞬わからなかったが、両頬を同時に張られたんだと思う。
 ――痛い。とても痛い。本当に痛い。
 非情な攻撃だった。打撃と共に顔が固定されるから、関節で勢いを吸収できない。どこにも逃がせなかった衝撃が、頭の中をがくがくと震わせた。

 「話そうっつってんのに、なに下向いてぼーっとしてやがんだコラ」

 口をへの字に曲げて怒ったように眉を吊り上げているロヴィに、僕は精一杯の恨みがましい視線でもって抗議する。

 「……い、……い、痛い」
 「え、マジか、そんな痛かったか……?」

 すぐに目を丸くして、焦ったように僕の頬をよしよしとさすってくれた。
 あまりにも痛かった。それほど怒らせてしまったのかと思ったのに、この様子では少しむっとした程度だったようだ。この人はいつも、冗談交じりの割に力加減に容赦がなくて困る。

 「……わ、悪い」
 「大丈夫……」

 手をぐーにして、ぱーにしながら、ロヴィはしきりに首を傾げていた。

 「……それで話って」
 「あー、うん。……まず聞きたいんだけどさ」
 「うん」
 「お前の思い出せる一番昔の記憶って、いつ?」
 「……え…………?」

 質問の意味が分からなかった。
 昔の記憶という言葉に、僕の頭はぐらりと揺れた。今度は、ロヴィは何もしていない。僕は頬を張られたわけじゃない。けれど、この眩暈にも似た視界の狭窄は何だろう。
 一瞬耳も遠くなって、あらゆる感覚が遠のいていくような気がした。
 何も答えられない僕を、ロヴィは苦笑まじりに見た。

 「……まあ、いっか」
 「え、待って、よくな……」
 「いーから、いーから」



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