褪ロラ
1
日の光が眩しくて目が覚めた。昼下がりに寝たはずだから、かなりの時間寝ていたことになる。お陰でとてもすっきりとした目覚めだった。ここから更に二度寝するのはさすがに躊躇われたけれど、僕は往生際悪く三度ほど寝返りを打ってからのろのろと起き上がった。
お腹は空いているような、いないような。誰か起きていたら、何か口に入れてもいいかもしれない。ここでの生活を始めてから寝食ともに不規則で、我ながら不健康だと思う。
居間にはロヴィとエルドさんがいた。
ロヴィは食卓の椅子に腰掛けて頬杖をついている。ドアを開けた音にも反応はなく、僕が近付いても振り返らない。ひょっとしてこの姿勢で寝ているのだろうかと、首を傾けて覗き込んだところでようやく目が合った。
「……あれ」
「おはよう、ロヴィ」
銀の瞳がぱちぱちと忙しなく瞬いて、すぐに笑みをつくった。
「……おはよ。なんだ、まだ真昼間だぞ。もう起きちまったのか?」
「うん。半端な時間だけど」
ロヴィはすっかり元気になっていた。昨日のように弱々しくぐったりした様子はもう見られない。いつも通り、八重歯の覗くあどけない笑みを浮かべて、瞳を緩く細めている。
「ロヴィは、もう平気なの」
「へーきへーき、寝たら治った! 完全回復、絶好調!」
おどけた仕草で、また笑って見せる。僕はほっとして、彼につられるようにちょっと笑った。
「エルドさん、寝てるの」
「寝てるな」
「昨日も同じ姿勢で寝てた。全く同じ」
食卓から少し離れたところにある革張りのソファには、エルドさんの大きな体が窮屈そうに横たわっている。
「悪いことしちまったな……」
「何が?」
「俺たちがぐーすか寝てる間、多分こいつ一人で寝ずに見張っててくれてたんだよ」
「あ……」
そうだった。僕たちに、夜の安眠は保証されていない。
こうして誰かが代わりに守ってくれでもしなければ、もう二度と。
「でも、じゃあベッドで寝かせてあげた方がいいんじゃ……」
「このでかい図体をか?」
「……動かせないかな」
「もたもた動かしてるうちに起こしちまうんじゃね?」
「それはそうかも」
残念。ごめんなさい。ちゃんと検討だけはしました。
安眠には程遠いだろう眠りに就いているエルドさんに、僕は心の中で謝っておいた。
「アキくんはまだ寝てるのかな」
「ああ……、しばらく降りてこないかもな」
「……そう、なんだ」
心配だから様子を見に行きたいけれど、眠っているのなら邪魔をするのは良くない。それに、いざ面と向かったところで、きっと僕には気の利いた励ましの言葉一つ口に出来はしないのだ。
「な、ヒロ。せっかくだしちょっと付き合えよ」
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