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褪ロラ
7


 一息吐いて、立ち上がったアキくんは僕にも笑いかけて言った。

 「君は? お茶、淹れてあげようか」

 父親のような人を、失くしてしまった。アキくんはどれほどショックを受けているだろうかと心配していたのだけれど、思ったほど落ち込んではいないのかもしれない。そのことに、少しだけほっとした。目に見えてショックを受けてアキくんが落ち込んでいたら、きっと僕は、何と声をかければいいかわからなくなっていただろうから。

 これだから僕は、だめなんだと思う。こんな状況で笑みを浮かべられることがどれほど異常なことであるか、僕にはわかっていなかった。今に何もかもが瓦解してしまいそうな彼の危うさも。――瞳に過った、狂気じみた光も。


 ***


 ロヴィを部屋に連れて行って、居間に戻ってきたエルドさんはとても渋い顔をしていた。
 僕たちはダイニングテーブルで、アキくんの淹れてくれた暖かいお茶を飲んでいた。

 「欲しいの」
 「いらねえよ」

 ポットを掲げて首を傾げたアキくんに、エルドさんは吐き捨てるように言った。

 「いいから、お前らも寝てくれ」
 「……さっきまで寝てたよ。眠くない」
 「つべこべ言わずにもう一回寝ろ。寝て起きて、顔を洗ってから来い」
 「どういう意味」
 「……お前、鏡見たか? 酷い顔をしてる」
 「元からこんな顔なんだ、酷くて悪かったね」

 気が付けばいつの間にか、二人の間に険悪な雰囲気が漂っている。

 「いい加減にしろよ。地に足着いてませんって顔しやがって」
 「は……?」
 「今すぐ乗り越えろなんて言わねえから……、まだ受け止めきれないのはわかるからさ。せめてちゃんと正面から向き合え」
 「何それ……、俺が現実逃避でもしてるみたいな言い方……」
 「その通りだろうが」
 「してないってば!」

 激しく反駁するアキくんに鬱陶しそうに見やると、エルドさんは嫌悪感を剥き出しにして言い放った。

 「寝ろ」

 二人とも今日が初対面のはずなのに、どうしてこうも仲が悪いのだろう。
 ――叩きつけるようにドアを閉める音がして、エルドさんは広い肩をほんの少し竦めた。




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あきゅろす。
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