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褪ロラ
6


 「……あの時の靄は、お前の生み出したもので、お前はそれを自分で取り込んで、死にかけた」

 苦々しく、むしろ自分が死にかけたような顔で、ロヴィは言う。

 「……じゃあ、俺が今こうして生きてるのは」
 「お前も、俺たちと”同じ”になった」
 「――はは……、そっか。……シャロンと同じだ。君の助けを必要としてる人たちは、たくさんいるのにね。たまたま近くにいたからってだけで、俺が先に助かっちゃったんだ……」

 沈黙が下りて、空気がにわかに重みを増したような気がした。肩にかかる力が強くなって、立っているのも大変なくらいに。息苦しくて、顔を上げてみても、見えるのはどこか寂し気な天井だけだ。それは、二度と帰らない家主を待ち続ける哀愁だろうか。

 「……他に、聞きたいことは」
 「…………」

 誰も、何も言わなかった。
 特に僕は、これ以上は聞いても頭に入らない気がした。

 「動けるか。……ちゃんとベッドで寝ろ」
 「……っ、ん……」

 朦朧としているのか、それは返事というより呻き声に近かった。お構いなしにエルドさんは再びロヴィの体を持ち上げて立ち上がった。ロヴィは何かに耐えるように目を閉じて、されるがままになっていた。
 けれど、力なく垂れ下がっていた腕が、不意にアキくんの手首を掴んだ。顔を上げて、驚いた顔のアキくんがロヴィと目を合わせる。

 「……ごめん、な」
 「……。なんで謝るの」
 「俺、」
 「だって、ロヴィを責めて何になるの」
 「…………」
 「シャロンはきっと、全部分かってたよ」

 口を開きかけては、噤む。それを三度ほど繰り返して、やはりロヴィは黙り込んだ。
 エルドさんは、口を挟まなかった。

 「俺は君に、感謝しかしてないよ。ロヴィはシャロンを助けてくれた。君がいなかったら、きっとあの人との別れはもっと早かった」
 「…………」
 「俺のことも。ロヴィがいなかったら死んでた」
 「…………」
 「ゆっくり休んで。起きたら、何か暖かい飲み物でも淹れてあげる。……まだ聞きたいことはあるけど、君が元気になってからでいい」

 そっと、柔らかく微笑んだ。金色の瞳が細められて、とても綺麗に光を反射した。
 去り際に見えたロヴィの顔が、ひどく傷ついたように歪めれらていたような気がした。僕は咄嗟に引き留めようとして、けれど躊躇った。気付けばエルドさんの背に隠れて、その表情はもう見えなかった。




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