褪ロラ
4
「……俺が、お前らにしてることは、病気の治療なんかじゃねえんだ」
話が変わって、僕は少し首を傾げる。
――でも、誰も何も言わないから、僕も黙っていることにした。
「一度蓄積した靄を取り出すことは、誰にもできない。……俺はただ、溢れそうになってる器から、もっと大きい容器に中身を移し替えてるだけ」
「……?」
抽象的な言葉に疑問符を浮かべる僕を見て、エルドさんは苦笑した。
「黒い靄にやられてダメになった体から、靄を抜き取って武器に移すんだよ」
「信じてもらえないかもしれねえけど……、俺は、人の心とか、精神っていう目に見えないものを、器として形に落とし込むことが出来る。……それが武器」
「…………」
「器だから、本来は何も入ってない。けど、そこに体に蓄積した黒い靄を移し替える。だから真っ黒。”影”と、おんなじ……」
再び目を閉じて、ロヴィは大儀そうにもう一度息を吐いた。本当に具合が悪いのだろう。ぐらぐらと不安定に揺れる肩を、エルドさんの大きな手のひらが支えた。
「”影”と接触すれば、どうしたって黒い靄を溜め込んじまう。武器の、この器の容量がいっぱいになったときがタイムリミット。お前らも、これから戦い続ければ……、いつかはあいつと同じ道を辿ることになる」
――あいつ、という言葉が誰を指しているのかは、確認するまでもないだろう。
「"影”は人の心の成れの果てで、心と体は一緒にあるべきだ。……でも、”影”はもう体には帰れない。完全に異質な、別物になっちまったから。行き場を失くした”影”は、それでもどこか空いてる体に戻ろうとする。だから俺を……、お前たちを襲う」
僕は昨夜の”影”を思い出していた。倒れたシャロンさんの体に向かって、執拗に頭を打ち付けていてた。――何度も、何度も。いっそ、愚直なまでに。
「真っ先に戻ろうとするのは、もとの居場所……、自分の体だ。あの蛇もそうだった。だから、”影”になった人間の遺体は大抵激しく損傷する。……目も当てられないくらいに」
「そんな……」
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