褪ロラ
1
目が覚めると、見覚えのあるベッドに転がされていた。そこは第五支部の、僕に宛がわれた部屋だった。
昨夜のことはちゃんと覚えている。シャロンさんのこと、アキくんのこと。そして、助けてくれたあの人のこと。
アキくんをベッドに運んだことは確かだけれど、あの人とロヴィはちゃんと帰って来られただろうか。思い出すと、にわかに気が揉めた。僕は慌ただしく寝台から降りて、部屋を出た。
そっと居間の扉を開けると、ソファからはみ出した長い脚が見えた。覗き込んで確かめれば、顔を腕で覆うようにして寝ているのはやはり昨夜の青年だった。癖の強い明るい色の髪が、重ねられた腕の下でぐしゃぐしゃになっている。
「……ん」
見下ろす僕の気配に気付いたのか寝息はすぐに途切れ、低い呻き声に変わった。
「あ、……あの」
「あー……。悪い、ちょっと寝てたわ……」
欠伸をしながら起き上がった彼は、一度目元を擦ると、すぐにしゃんとした顔つきになって笑った。
「昨夜はご苦労さん。大変だったろ、ガキ一人抱えてここまで運んでくるのは」
「……うん。まだ腕とか、足とか、ちょっと変」
「眠れたか」
「うん」
「ならよかった」
不思議な雰囲気の人だった。面と向かっていても、緊張しない。僕は決して社交的な質ではないし、端的に言うなら人見知りだ。昨夜慌ただしく言葉を交わしたとは言え、ほとんど初対面みたいなものなのに。僕には珍しく、自然体で話すことが出来た。
その時、天井の向こうで大きな音がした。どこかで扉が開いて、階段を駆け下りる音。
瞬く間に足音はすぐそこまで迫ってきて、ものすごい勢いで居間の扉が開け放たれた。蝶番が軋み、ドアノブは壁に激突して跳ね返った。
寝起きのアキくんが、肩で息をしながら立っていた。寝癖で髪が酷いことになっている。でも、今はそんなことにまで気が回らないのだろう。アキくんの金色の瞳はただ強い光を孕んで、僕の隣の青年を射殺さんばかりに睨んでいた。
「誰」
「……すごい剣幕だな」
「どちら様ですか」
「エルド」
「名前を聞いてるんじゃない」
「じゃあなんだ。生年月日か?」
「誰に断ってここにいるの」
「生憎、家主が死んじまってて断りようがなくてな」
「……っ!」
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