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褪ロラ
10

 とにかく必死で、どこをどう歩いたのか記憶が曖昧だった。
 やっとのことで第五支部に辿り着いて、倒れ込むようにして玄関の扉を開けた。意識のない人間がこんなにも重いとは知らなかった。酷使した腕が、足が、がくがくと震えている。
 でも、アキくんをベッドに寝かせてやらないと。あの量の黒い靄を浴びて、アキくんが無事だったとは思えないが、幸いまだ息はしている。休息を欲する体に鞭打って再び立ち上がると、僕はアキくんを半ば引き摺るようにして階段を上った。
 泥のように重いその体をベッドに押し込むと、どっと疲れが押し寄せた。もう一歩も歩けなくて、指一本動かすのすら億劫だった。
 少しだけ、ほんの少しだけでいいから、休憩させてほしい。僕たちを逃がしてくれたあの人の帰りを待つつもりでいたけれど、ベッドの縁に凭れかかって座り込んでしまえば、もう立ち上がれそうになかった。重力に引っ張られて、額がシーツに柔らかく沈む。目を閉じて、一呼吸のうちに僕は意識を失った。



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