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褪ロラ
7

 どこまでも黒い闇が、光を遮るように僕たちの前に立ちはだかる。見上げたそれは、鎌首をもたげた蛇のシルエットだった。姿形はとても馴染みのある見慣れたものだけれど、とにかく大きい。全長は十メートルを優に超えているだろう。細長い体をくねらせて、尾の先を気まぐれに持ち上げては地面を叩く。大木の幹ほどもある胴体は、僕が両腕をいっぱいに回しても足りるかどうか。
 呆然としつつもその頭らしき箇所を見上げると、なんとなく目が合ったような気がした。頭も胴体もどこもかしこも真っ黒で、目なんて全く見当たらないのだけど。
 ――なんてことを考えていたのが、時間にして数秒程度。
 次の瞬間、”影”の首が突如しなって、僕の背後の地面に猛烈な勢いで突っ込んだ。よろめきながら振り返れば、蛇の頭は地面に突き刺さるようにめり込んでいた。
 その光景に、おやと思った。何かがおかしい。僕が自力でその違和感の正体に辿り着く前に、解答はすぐに僕の眼前に示された。

 再び持ち上がった大蛇の顔から、赤い水が滴り落ちる。――それは、ついさっきまで言葉を交わしていたあの人の、生きていた証。
 ああ、そうだ。音だ。コンクリートの硬い地面に打ち付けたにしては、音が鈍すぎた。何かがクッションになって衝突の勢いを緩和でもしていなければ、もっと派手な音がしていたはずなのだ。奇しくもそこの地面に倒れていたシャロンさんの体が、”影”の頭を受け止める形になったのだろう。
 そしてもう一度、”影”はシャロンさん越しの地面に頭をぶつける。不可解なその行為はしかしとにかく執拗で、蛇は繰り返しそこに頭を打ち付け続けた。何度も、何度も、何度も。初めのうちは確かに、柔らかいものを押し潰すようなぐちゃりともぐちゅりともつかない音がして聞くに堪えなかったのだけれど、十を数えるころには水の滴る音しかしなくなった。




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あきゅろす。
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