[携帯モード] [URL送信]

褪ロラ
3


 アキくんとロヴィの懸命な説得の結果、今夜の”影”との戦いには、アキくんを含めた四人で向かうことになった。散々渋られたけれど、最後はアキくんの粘り勝ちだった。シャロンさんから提示された条件は、「必ず二人一緒に行動すること」。つまり、僕が”影”の動きを感知して、それを受けたアキくんが最善の行動を取ることである。
 “影”の標的になり得る僕と行動を共にするのはある意味では危険なのだが、そこは昨日と同様ロヴィが上手く”影”を引き付けてくれるということで落ち着いた。シャロンさんはその援護に回る。

 今夜”影”を迎えるのは、昨夜の廃工場よりも近場にある廃ビルに決まった。支部周辺のこうした対”影”迎撃戦のための場所はある程度リストアップされていて、基本的に研究機関の管轄に置かれ、普段から一般人の立ち入りを制限している場所なのだそうだ。表向きには廃墟となっている建物を、敢えて取り壊さずそのまま流用しているのだとか。

 ビルといっても、あまり大きい建物ではなかった。コンクリートを打ち放しただけの壁面には雨垂れの跡が幾筋もついていて、いかにも廃墟然としている。一昔前のデザインのオフィスビルといったところか。窓枠の並びで四階建てであることがわかる。ただしそこにあるのは枠だけで、ガラスは一枚たりとも無事な状態で嵌まってはいなかったけれど。
 階段は劣化が酷く危険だということで、使われるのはもっぱら一階だけらしい。エレベーターシャフトは見当たらないので、階段が唯一の昇降手段なのだろう。
 内部に足を踏み入れると、全フロアぶち抜きの大空間が広がっていた。さすがに昨日の工場よりは狭いけれど、それでも戦闘には十分な広さだ。元はあったのだろう間仕切り壁を、取り壊したような形跡がいくつも確認できる。視界を遮るのはコンクリートの無機質な角柱だけで、身を隠す場所はこの後ろにしかなさそうだった。天井が低く窓からの光は差し込みにくいが、かろうじてまだ電気が通っているらしく、照明の電源を入れれば明かりが灯った。しかし、やはり半廃墟である。蛍光灯の多くは破損していたり寿命を迎えていたりで、まともに照明としての機能を全うしているものは少なく、結局薄暗いことに変わりはなかった。


 ”影”はなかなか訪れなかった。ここに来てしばらくは緊張していたアキくんも、何も起きない状況に気が緩んだのか、柱の陰に蹲ってうたた寝をし始めた。隣にいる僕もなんだか眠くなってきて、アキくんの隣にしゃがみ込んでしまった。シャロンさんとロヴィが何かやり取りをしているのを遠くに聞きながら、目を閉じてしまえば世界が遠ざかっていった。




[*前へ][次へ#]

3/11ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!