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褪ロラ
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 そういうわけで僕は今シャロンさんの横で身を屈めながら、”影”と対峙するロヴィの黒ずくめの姿を見下ろしているわけなのだが。

 シャロンさんの射撃の腕は、本人の自信満々な態度の通りかなり精度の高いものだった。僅かに開けた窓から漆黒の銃口を突き出し、無慈悲なまでの正確さで”影”を打ち抜いていく様子を見ているのは、不謹慎かもしれないが少し気持ちがよかった。
 シャロンさんのマスケット銃のような武器は、連射など到底ききそうにない見た目とは裏腹に、矢継ぎ早に弾丸を送り出していた。やはりこの真っ黒な武器は、通常の武器とは一線を画すのだろう。さっきから銃弾の装填だって一度もしていないし、硝煙も全く上がっていない。

 「……シャロンさん」
 「なんだ」
 「一つ聞いてもいいですか」

 無言でまた一度、引き金が引かれる。過たず弾丸は”影”の右前足を貫いて、バランスを崩したところへ黒い刃の一閃が飛ぶ。
 返事がないということは、続けろという意味だろうか。

 「……こんなに音を立てて、周りの家に気付かれたりはしないんですか」
 「俺たちの武器を含め靄や"影”は、その視覚的な情報だけでなく、関わる現象全てが何故か一般人には感知されない」
 「目に見えないだけじゃなくて、立てる音も聞こえなくて、触れなくて、気配さえ感じられない……?」
 「そうだ」

 それは、もはや存在しないことと同義ではないのか。もしそうなら、靄も”影”も僕たちだけが見ている共同幻覚で、本当はそんなものありはしなくて――。

 黒い人影がまるで何かのパフォーマンスのように、”影”の周りを縦横無尽に跳び跳ねる。
 煩わしそうに繰り出される黒い足を、尾を、紙一重でかわしながら、踊るような足捌きでその皮膚を何度も何度も切り付けていく。左手に握る漆黒の刃はナイフにしては大振りだが、それでも刃渡りは精々三十センチ程度のものである。対峙する”影”の大きさを考えれば獲物としてはたいそう頼りないが、不思議と損傷は与えられているようだった。切り付けられた”影”の体のあちこちが変色を始め、恐らく敢えて集中的に狙っているのだろう。右肩はほぼ完全に色を失っていた。



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