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褪ロラ
7


 「よし! そろそろ行くか!」

 ――夜。目を覚ましたロヴィはすっかり元気を取り戻していて、いつも通り朗らかな笑顔を浮かべていた。慣れないことの連続で疲れが溜まっていたのと、そのくせなかなか寝付けないでいたこともあって、僕はまだ眠気が抜けきっていないのだけど。

 「行くって、……こっちから出向くの?」
 「お前なー……、昨夜は仕方なく籠ってたけど、どうせ迎え撃つならもっと戦いやすいとこのがいいだろ?」
 「なるほど」

 そんな僕たちのやりとりをよそに、少し離れたところではシャロンさんが上着を羽織りながらアキくんと話している。

 「うん、戸締りも確認したし大丈夫。後で何か軽く食べられるものでも作っておくよ」
 「何かあったらすぐに連絡するんだぞ」
 「わかってる」

 くすぐったそうに小さく笑ってアキくんは僕たちの方にも視線を寄越した。

 「二人も気を付けて」
 「おう、ありがとな。おやすみ、アキ」
 「うん、おやすみ。……行ってらっしゃい」

 結局アキくんは細い肩に厚手のストールを羽織って、玄関の外まで見送りに来てくれた。手を振りながらちょっと眠そうにしているアキくんの顔が、なんとなく印象に残った。

 *********


 ”影”との戦いは、基本的には迎撃戦であるらしい。こちらとしては襲われなければ彼らと戦う理由はないのだが、襲撃によって命を脅かされる危険がある以上は迎え撃たざるを得ない、というわけだ。昨日と違うのは、籠城戦ではないためにこちらの有利な場所での戦闘に持ち込めるということ。自分自身を囮にしておびき寄せた”影”がその場に足を踏み入れるところを狙って、一気に畳みかけるのがセオリーなのだそうだ。
 
 シャロンさんに連れられて僕たちが向かったのは町はずれの廃工場だった。広い工場内は機械類を始め何もかもが全て持ち出されているせいで、がらんどうの空間が広がっている。高い位置に設けられた大きな窓が水平に連続しており、差し込む月明かりだけで最低限の光は確保されていた。確かにこれは、人目につかないよう戦うには最適の場所かもしれない。壁に取り付けられているさび付いた梯子は、窓の開閉のためだろうか、壁に張り付くように設けられた人一人分ほどの幅の狭い通路に繋がっている。そこからさらに上っていけば、屋上に出るための開口部があるらしく、僕は下からロヴィに支えてもらいながら冷たい鉄の梯子をよじ登った。
 それは、屋上というよりもそのまま屋根の上だった。一枚の板を繰り返し蛇腹に折り返した形のトタン屋根。勾配はさほど感じられないので転落する危険はなさそうだが、天井の高い工場である。当然屋根の上もかなりの高さで、辺り一帯の夜の街が一望できた。
 僕の後に続いてすぐにロヴィも屋根の上に姿を見せ、同じように眼下の景色を見渡している。――こうして闇の中で見る彼の姿には、やはり色がなかった。風に靡く黒髪を無造作に掻き上げて、黒ずくめの青年は銀の瞳を光らせる。ぼんやりとした月明かりのなかで、夜に生きる白い肌は目に痛いほどに浮かび上がって見えた。



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