褪ロラ
6
「もういい?」
「あ、待って、まだ……」
「今日の夜から二人について行くつもりなら、今のうちにさっさと寝ておいた方がいいよ」
「うん、でも、もう少し僕の話に付き合ってほしい。……ロヴィもシャロンさんも、寝ちゃったから」
僕の説得に軽くため息を吐くと、アキくんは椅子を引いて腰を落ち着けてくれた。ロヴィの寝ているソファから少し離れているのは、彼なりの配慮なのだと思う。話を聞いてくれる気になったみたいなのは嬉しいが、やっぱり僕よりもアキくんの方が遥かに大人で、ちょっと切ない。
「ロヴィのこと、聞きたいんだけど」
「ロヴィ? ……俺に聞かれてもよく知らないよ。ただ、シャロンの命の恩人だってことは確かで、だから俺にとっても恩人になるんだけど」
「どうして、ロヴィだけが病気を治せるんだろう」
「それがわからないから、みんな躍起になって……」
そこで一旦言葉を区切ると、アキくんは何かを逡巡するような仕草を見せた。僕から目を逸らして、テーブルの上に視線を落とした。
「アキくん?」
「…………」
背凭れにくたりと背中を預けて、やはりその金の瞳は僕の姿を映そうとはしなかった。
「世界中のみんなが苦しんでる病気を、あの人だけが治せるんだよ。これがどういう意味なのかくらい、わかるでしょ」
「どういう……?」
「俺もシャロンから又聞きしてるだけだから、詳しい事情を知ってるわけじゃないけど。……取り合いになってた、みたい。かなり激しく。だからシャロンは、久し振りにロヴィが自由に出歩いてるのを見て驚いてた」
「それは、確か、各支部がみんな”影”に襲撃されたから」
「うん、そうだね。けど、今も黒死病で死にかけてる人は大勢いて、一分ごとに誰かが死んでる。その誰もが、ロヴィの助けを必要としてる」
「じゃあ、……」
僕はソファで静かに眠るロヴィを見た。ここからでは、ひじ掛けの向こうに黒髪が僅かに覗いているだけで、その姿はほとんど見えなかった。
「でも俺思うんだけど、あの人だって一人の人間なんだ。病気を治すための”道具”じゃない。……なんて、シャロンの病気を治してもらっておいて、言うセリフじゃないのかもしれないけど」
――君はそう思わない?
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