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褪ロラ
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 「おーい、いつまで寝てんだー?」
 「!」

 間近で聞こえた声に驚いて、僕は目を開けた。
 上から逆さまに僕を覗き込んでいるのは、黒髪に銀の瞳をした青年だった。尖った八重歯の先が口の端から少しだけ見えている。どこか幼さを残した顔立ちには、なんとなく見覚えがあった。
 ――誰だっけ、この人。どこで見たんだろう。
 青年の頭越しに見えるのは、知らない天井。ベッドの感触もシーツの肌触りも、慣れ親しんだものではない。ここはどこだろう。昨夜眠りに就いた時の記憶があまりない。とにかく疲れ切っていて、横になっていくらも経たないうちに意識を失ってしまったような気がする。
 あと少しで思い出せそうなのに。まるで頭に靄がかかったようだ。……靄?
 黒と白。無彩色。夜の闇と、光を呑み込む影。
 ――そうだ。僕は、世界が内に孕む闇の一端を垣間見てしまった。

 漆黒の髪が、朝日に透けてきらきらと僕の目を焼いた。

 「……えっと」
 「ん?」
 「………………あ。ロヴィ。おはよう」

 昨夜出会った青年と目の前の彼とでは驚くほど印象が違って、気付くのに時間がかかった。まるで別人のように見える。血の気の失せた真っ白な顔をしたロヴィには色がなかったけれど、日の下にいる彼はきちんと自分の色を持っていた。
 そんなこととは知るはずもなく、ロヴィは引きつった笑顔で僕の顔を両手で掴んだ。

 「よーしよしよし、五秒もかかったけどよく思い出したなあ? えらいぞー?」
 「いひゃい」
 「んっとに、マイペースなやろうだなお前は……!」
 「ごぇんにゃひゃい」

 ぐにぐにと頬を伸ばされては、押し潰される。本気で怒っているわけではないと思うのだけど、力加減がどうにも雑で僕としてはかなり痛い。ひとしきり僕の顔を弄り回して満足したところで、ロヴィは僕の額を二度三度軽く叩いた。

 「朝メシ、食うだろ?」
 「うん」
 「じゃあ早く下りて来いよ。遅いと食っちまうからなー?」

 軽快な足音を立てて、ロヴィは去っていった。朝から元気な人である。
 僕も体を起こして、欠伸を一つ。眠気を断ち切るように、思い切り深呼吸した。知らない部屋の知らないにおいが、肺いっぱいに満ちた。



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あきゅろす。
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