褪ロラ
6
しかし問題は、アキくんだけに留まらなかった。
ロヴィの寝つきがとんでもなく悪いことに気が付いたのは、放浪生活開始初日のことであった。
「……寝れねーんだよな」
ごろりと地面を転がって、ロヴィは逆さまの視界で僕を見上げた。
唇をつんと尖らせた、子供みたいな顔で。
彼のすぐ隣には、すうすうと穏やかな寝息を立てるアキくんが、ストールに包まっている。
「え……」
「俺、人が見てるそばで、ちゃんと寝れねーの」
僕とエルドさんが見下ろす先で、居心地悪そうに身動ぎする彼は、なるほど確かに眠気など欠片も感じていない様子だった。
他人の気配がすぐそばにあると、目が冴えてしまうらしい。
「んー……やっぱ、俺起きてっからさ、お前ら寝ろよ」
「!? だ、だって、ロヴィは、いつ寝るの」
「徹夜は慣れてる」
どうせ眠れないのだから起きていたいと口にするロヴィに、僕は言葉を失った。
「……っ、お前はガキか?! つべこべ言わずに寝ろ!」
エルドさんは、ロヴィに本気で腹を立てているみたいだった。
真正面から怒られて、一瞬面食らったロヴィは、次の瞬間には不快感を露に顔を顰める。
「寝れねえんだっつってんだろ……」
地を這うような低い声で吐き捨てると、それでも、大人しく寝返りを打った。
せめてもの気遣いに、僕たちは離れられるギリギリまでロヴィから距離を取ることにした。
エルドさんは、怒っているというより、どこか落ち込んでいるようにも見えた。少し、悲しそうだった。
その後も、エルドさんと他愛のない話をしながら、遠目にロヴィの様子を窺っていた。
目を遣るたびに体勢が変わっていることから、ロヴィの眠れないというは嘘ではなさそうだった。
――あれ。なんだろう。何か、違和感が。
ちらりとそんなことが頭を掠めたけれど、違和感の正体は、捕まえる前に見失ってしまった。
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