褪ロラ
3
「……もしかして、説得するために?」
「ああ。でも、失敗した」
「…………」
あっさりと告白するエルドさんは、本当に清々しい。
こういうタイミングで、うまく相手をフォローできる人間になりたいのだけど。
生憎僕は、明確に自覚しているほどに気の利かない人間なのだった。
黙り込んだ僕を見て、
「……おい、そんな気の毒そうな顔をするな。むしろ笑ってくれ」
エルドさんはちょっと怒ったように、僕を睨む。
そんなに気の毒そうな顔を、していただろうか。
笑えと言われても、そちらの方がよほど難しい。
「――それで、アキのことを最初にぶっ飛ばしためちゃくちゃな野郎がエドワード。正直、俺もアレだけは相手にしたくない。結果的にアキがあいつの相手をしてくれて助かった。……アキは黒い靄の力で底上げしてるが、あの化け物は生身の、元々の身体能力であれだ。人間じゃない」
「人間じゃないって、そこまで……」
「あいつだけは敵に回すなよ。あの時のあれで、アキが目を付けられてなきゃいいんだけどな」
これまでと打って変わって、穏やかでない表現が続いて、僕は思わず身構える。
「怖い、ひと……?」
「ああいや……、そうだな。怖いは怖いけど、やっぱり悪い奴じゃないぞ。クソ真面目な堅物ってだけでな」
安心していいのだか何だか、わからない説明だった。
「最後に、お前の前に立ってた弓使いがノエル。あの中じゃ一番若い。お前よりちょっと上くらいかな」
その姿を思い出して、僕の胸に苦い気持ちがよみがえる。
何もできずに見上げた無防備な背中は、まるで僕の弱さの象徴だった。
口もとに手を当てて、顎を撫でるようにエルドさんは思案していた。
「無口で何考えてるかわからんが、まあ、やっぱり特に害のあるやつじゃなかった。……そもそも、マリーはさておき、あの二人がなんでマックに従ってんのかもよくわからないからな。特別親しいわけでもあるまいし、あのメンツで組んでるのを見て驚いた」
「…………」
後半の彼らの事情はよくわからないし、どうでもよかった。
ただ、何度も繰り返されたフレーズが耳に残った。
――みんな、悪い人じゃない。
でも、悪い人じゃないのに、ロヴィに酷いことをしようとしている。
どうして、なんだろう。
誰も、悪くないのなら。
悪いのは誰なんだろう。
僕は、あの黄昏の向こうに聞いたロヴィの声を思い出す。
――生きたいか。
彼は確かに、僕の意思を確認していた。
――生きたい。死にたくない。
そう答えたのは、僕だ。
ロヴィは、僕の願いを叶えてくれただけ。
ならば、やはり僕は胸を張って言える。
ロヴィは、悪いことなんて何もしていないんだ、と。
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