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褪ロラ
2


 「……そうだ。あの人たちは、エルドさんの知り合いだったんですね」
 「ん――ああ」

 あの人たちとはもちろん、先日交戦し、どうにか撃退することに成功した黒衣の四人のことである。そのうちの一人、中心人物と見えた大剣使いの男は、露骨な嫌悪感をもってエルドさんに捨て台詞を残していった。その後のエルドさんの話し振りからしても、彼があの四人と以前からの知り合いであることは疑いようもなかった。
 念のための確認のつもりでそう聞いてみれば、ロヴィのことについても先回りして言及してくれた。

 「……まあ、な。当然、ロヴィとも顔見知りってことになる」

 この世でただ一人、彼だけが、体内で人体に悪影響を及ぼす黒い靄を体外に抽出し、武器という形に変換することができる。
 裏を返せばつまり、武器を持つ者は必ず、それを彼に手ずから与えられているはずなのである。
 少なくとも、顔見知りでなくてはおかしい。
 それなのに、武器を持っていながらロヴィの記憶に残っていないという、あり得ない人物の存在が発覚した。
 それが、当のエルドさんなのだが――。
 この話はしかし、一旦の保留扱いになっているので、今更ここで僕が掘り返すつもりはなかった。第一、掘り返したところで、またあの清々しい黙秘を主張されて終わりである。
 要らぬ追求は避けて、僕はそのまま話題を続ける。

 「あの四人、どんな人たちなんですか」
 「どんな、って……。前にも言ったが、別に悪人ってわけじゃないんだぞ?」

 彼の言う通り、エルドさんは前にもこんな風に彼らを庇うようなことを言っていた。
 けれど、ろくに話したこともない僕には、その言葉を完全に鵜呑みにすることは難しい。
 僕にしてみれば、彼らはいきなり現れて一方的にロヴィを傷付けようとした相手なのだから。
 そんな僕の心情をも察してか、エルドさんは微かに笑ってゆっくりと話し始めた。

 「ロヴィとやりあってた、でかい剣持ってたやつ。あいつはマッケンゼン。ちょっと我が強くて思い込みの激しいところがあるんだが、根は優しくていい奴なんだ。……ロヴィとも、結構仲が良かったって聞いてる」
 「え…………」
 「少なくとも、あいつはロヴィのこと可愛がってたよ。本人が、自分でそう言ってた」

 ――ああ、そうか。
 彼の言葉に、僕はようやく気付く。
 親しげに名を呼び合う彼らを見て、僕がなんとなく感じたものの正体を。

 「……仲が良かったのに、あんなに酷いことが、できるんだ……」

 非難がましさが滲んでしまうのは、もうどうしようもなかった。
 それもわかって、エルドさんは僕を責めずに、ただ言い訳のような言葉を続ける。

 「そういうとこが、思い込みの激しい奴なんだよ。それが正しいと思っちまったんだろうな。あいつにとっての正義が、ロヴィの存在と折り合いが悪かったのかもしれない」
 「……そういう、ものかな」
 「人のことなんてわからないさ。何考えてんのかわからないのは、何もあいつに限った話じゃないだろ?」
 「…………」

 果たしてそれは自虐なのか。
 はたまた僕たちに対する皮肉なのか。
 僕は判断に困った。

 「一人だけいた女はマリーってやつで……あいつもまあ、ちょっと困ったところはあるんだが、悪い奴じゃない。確か、マックとは幼馴染だったな」

 女の人が戦場にいるのを初めて見て、僕は少し驚いた。
 これまで僕の会った何人かが、たまたま全て男性だっただけで、別に女性が戦場に立てないなんて決まりはないのだと、すぐに思い直した。
 可愛らしい人だったように思う。柔和で、優しそうな顔をしていた。

 「エルドさんは、あの人に狙われてた」
 「そうだな。俺も、あの中じゃ一番話が通じそうだと思ったから、敢えてあの煙幕に巻き込まれてみたんだが……」





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