褪ロラ
10
「……それも、本人に直接聞いたわけじゃなくて、人づてなんだけどな」
「その、人って」
「組織の偉い人」
「……なるほど」
身も蓋もない言い方である。
「その人は、ロヴィのこと、僕たちよりもたくさん知ってるんだ……」
「さあ」
「えっ」
「あいつは、うそつきだからな」
「……うそつき? ロヴィが?」
僕は忙しなく目をしばたいた。ロヴィに隠し事をされていること――何もかもを打ち明けてもらっているわけではないことは、僕にもわかっていた。
けれど、嘘まで吐かれているんだろうか。
「あいつがこれまで、誰にどこまで自分のことを話してたか知らないが……、それの一体どこまでを信用していいんだかな」
「……うそ、か……」
「つらいときも、何があっても、本当のことを言わない。打ち明けない。……アレはそういうやつだ」
エルドさんの責めるような声音に、少しだけ別の感情が混じったような気がした。苦くて、少し、悲しいような。
「全部一人で抱え込んで、笑って誤魔化しながら、極端に干渉を嫌う」
「……うん」
――そうだ。エルドさんのその言葉で、やっと腑に落ちた。ロヴィはいつも、極力干渉を避けようとする。僕の関心も、アキくんの心配も、エルドさんの手助けも。差し出されたそれらを、いつもどこか居心地悪そうに身を引いて、躱そうとしていた。
辛そうな顔をするのに。何かを抱えて悩んでいる様子を見せるのに。
関わらせてもらえない。助けを、望んでもらえない。
望んでもらえなければ、迷惑になってしまうかもしれない。それが怖くて、僕は何もできない。
「……まあ、今はあいつのことはいい。問題はその弟なんだが……」
「……うん」
「死んだはず、なんだ」
「え…………?」
突飛な言葉に耳を疑った。
確かにロヴィの弟だという彼は、ロヴィそっくりな顔をして、しかしとても普通の人には見えなかった。とにかく様子が、尋常ではなかったから。
けれど、だからと言って、それでは。
「じゃあ……、ゆ、ゆうれい……」
「って可能性も、なくはないな。現にわけのわからん怪奇現象も起きてることだし」
エルドさんは苦笑まじりに言った。
やけに生気のない姿も、不可思議な現象も、全て彼が幽霊だったのだと思えば納得がいく、かもしれない。死んだロヴィの双子の弟が、ロヴィのことを影ながら見守っている。
ありえない話ではなさそうだった。――霊魂の存在を信じるなら、だが。
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