褪ロラ
9
「なんだ、あいつ関連の話か? お前の秘密なのに?」
「……そう。僕と、ロヴィの秘密」
すう、と。
息を吸って、ゆっくり、はっきりと、言った。
「僕、ロヴィの弟に、会ったんです」
「……っ……!?」
僕の予想よりも四割増しで驚愕して見せたエルドさんは、口をぱくぱくさせながら僕の肩を掴んだ。
「……で、デタラメ、言ってるんじゃ、ないよな……?」
「えっ……。……ひどい。確かに僕はいつもぼうっとしてるけど、嘘もデタラメも言わない」
そう言って僕が睨むようにその赤い瞳を見上げると、人の良い彼はたちまち狼狽えてフォローを始めた。
「ち、違う違う。そうじゃなくて、ああ……、デタラメっていうのは言葉が悪かった。俺が悪かったよ……! ――……本当、なんだな?」
こくりと頷く。
「……わかった」
やんわりと背を押されて、僕は廊下に追い出された。
エルドさんは居間でくつろいでいる二人に何か声を掛けると、すぐに戻ってきて、
「お前の部屋、行くぞ」
と、もう一度僕の背を押して促した。
そして僕はエルドさんと連れ立って部屋に戻り、一部始終を打ち明けたのだった。
以前、暗がりの中から僕たちを見ている銀の瞳を目撃したこと。ロヴィの身内ではないかと疑って、探しに出掛けたこと。急に辺りが暗くなって、いつの間にか人気のない知らない土地にいたこと。そして、次第に濃くなった闇の中に、ロヴィにそっくりな人を見付けたこと。彼の言動はほとんどが不可解で、僕にはさっぱりわけがわからなかったこと。気付いたらここに帰って来てしまっていて、彼の行方や目的など、何もかもが謎のままであるということ。
「…………」
いつしか、真っ青な顔をして、エルドさんが口元を抑えていた。僕から見てもただならないその様子に、思わず尋ねていた。
「……? エルドさんは、あの人のこと知ってるんですか」
「……いや。……面識は、ない」
「面識、は」
「あいつに、双子の弟がいることは知ってた」
ロヴィは、自分のことをあまり話さない。それは、僕が彼のことを知りたいと思うようになって、強く実感したこと。彼は僕たちのことを気にかけて、いつも僕たちのことを考えてくれるけど、その逆を許してくれない。決定的なところで線引きをするように、そこから先の個人的な事情についてはほとんど何も話してくれないのだった。
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