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褪ロラ
5


 どんどん、どんどん、翳っていく。光が失われて、見知らぬ土地の景色が闇に沈んでいく。
 黒い靄に取り囲まれていることに気が付いたのは、数瞬遅れてのことだった。
 僕の体内に溢れた黒い靄は、いつかの日にロヴィに取り除かれ、武器という器に移し替えられた。そうやって僕は、一度死にかけた命を辛うじて今に繋いでいる。けれど、更にその器にも靄を溜め込み続ければ、それさえもいつかは壊れてしまう。そうなった先にあるのは、”影”という異形への転身である。
 そんな危機感からくる恐怖が、しかし今の僕には、どこか遠かった。
 確かに怖くはあった。けれど、それよりも今、僕の目の前に起きていることをしっかりと確かめなければいけない。その思いが、恐怖を凌駕しているみたいだった。

 「だれか、いるの……」

 どこまでも暗く黒い闇が、眼前に広がっている。
 それは、そこに、そうあるように、あるべくして在った。
 先の見通せない、真の闇。そこには一筋の光すらも届かない。
 なのに、今や僕にはその蠢きが感じられた。揺らぎ、捻じれて、鼓動する。一つの、生き物のように。
 思わず、錯覚かと疑った。

 「……!」

 確と、目を、凝らす。

 「…………あなたは……、だ、れ……?」

 特徴的な、そのいろは。

 「……もしかして、ロヴィの家族の人、ですか」

 闇に、目が慣れてくる。
 佇む姿が、徐々にはっきりと見えてくる。
 それは――それは、とてもよく見知った顔だった。

 「……、……」

 瞳どころではなかった。髪も、輪郭も、鼻も、口も、すべてが同じだ。
 日焼けのない真っ白な肌に、黒髪と黒い服。一切の彩を拒絶するかのごとき、無彩色。
 髪型と服装だけが、少し違う。ロヴィよりも少し長い髪は、よく見れば彼とは逆の向きに流れているし、その装いはパーカーではなく黒いシンプルなシャツ一枚だった。
 ここまで容姿の酷似した人間を、僕は見たことがない。けれど、知識としては知っている。
 彼は――彼らは、どう見ても一卵性双生児だった。

 「……双、子……」

 思わずこぼした僕の言葉に反応はなく、ただじっと、銀の瞳をこちらに向けている。
 両腕をだらりとぶら下げて、無気力と脱力を絵に描いたような佇まいだった。と言っても、だらしがないわけではない。背筋が真っ直ぐに伸びていて、姿勢はむしろ良いくらいである。それなのに、この違和感は何だろう。
 生きている人間ならば、当然少なからず持っているはずの、それ。覇気とか、活力のようなもの――気配と言い換えてもいいかもしれない。それらが、まるで感じられない。物のようにそこにあって、「生きる」という行為を放棄したように佇んでいる。
 ロヴィと同じ銀の瞳は確かに僕を捉えているけれど、本当に「見て」いるのか定かでない。そんな風に思わせるほどに、強烈な違和感があった。




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