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「ん……」

 暖かな波に意識が浮上する。霞む視界を何度かまばたきして、やっと見えたのは細身なのにしっかり筋肉のついたカラダ。
 どうやらもう一度風呂に入っているようだ。

「ゆーすけさん……」

 ひりひりする喉で微かに呼びかけると、ぴちゃりと湯面から腕が浮かび上がった。

「おはよう」
「……おはよう」

 唇に優しいキス。ちゅっと重なるだけの、甘いキス。それがたまらなく幸せだった。

「痛いところは?」
「なんか、体が違和感……」
「そんくらいなら平気だな」

 肩に暖かな湯がかけられて、そのまま濡れた手に体を撫でられた。優しい手のひら。優しい声。溶けてしまいそうだ。

「洋平、聞いていい?」
「なに?」

 少し体勢を正して、裕介さんは静かに俺に聞いてきた。今まで横抱きにしていた俺を足の間に下ろして、後ろから緩やかに抱きしめるその腕が愛しい。
 だけど顔を見られないのは少し不安だった。

「俺のこと好きなの?」

 どんな顔でそんなこと聞くのか見てやりたかった。なんとなく、声に自信がなくなっている気がする。
 だから、

「好きだよ」

 と応えた。自信を持って、そう応えたのに、

「なんで? お前さ、俺の見た目だけで寄ってきたんだろ? 俺は見た目ほど優しくねえぞ」
「うん」

 そう言って俺を遠ざけた。なんだか寂しいけれど、たしかにそう思う。すんなり名前教えてくれなかったり、貫通させろとか言うし、なんかひどい人だった。

だけど、

「そーゆーの知っても好きなんだけど、どーしよう」

 気持ちを伝えたら笑われた。低く喉をふるわせるような笑い方。背中から振動が伝わる。

「どーしたい?」
「……裕介さんの、気持ちが知りたい」

 問われればそう答える。だって、知りたい。
 果てる時に愛を聞いた気がする。柔らかな声の、愛を。

「それ聞いたら、今度こそ、ほんとに逃げらんねえぞ?」
「逃げる気なんかないってば」

 試すような口振りに、少し苛立った。やんわり腹を撫でる腕を捕まえて、抱きしめる。

「好きだよ。お前が俺を見てたみたいに、俺もお前を見てた。捕まえて、囲って、飼いたくてしょうがなかった」

 そこにあったのは、少し強い愛。言葉が俺を捕らえる。そんな、愛。

「これ聞いちゃったから、洋平はもう俺のね。もう俺以外誰にも触らせんの禁止」
「そんなの無理だよ」
「無理じゃねえよ、やれ。男にも女にも触らせんなよ。触んのも禁止〜」

 ぎゅっと強く抱きしめられる。耳に裕介さんの耳が触れるのが、気持ちよくて。

「ってワガママ言いたくなるほど、好き。でもコレはかなり本気で思ってるから、少なくとも俺の前では誰にも触らせないようにして」
「……がんばる」
「本気で頑張らないと、お前そのうちこの部屋に監禁されそうだってこと、気付いとけよ」

 ちゅっと頬にキスされて、抱き起こされた。そのままいっぱいキスをして、ベッドでごろごろしながら時を過ごした。
 いつの間にか時計は深夜2時で、俺は明日もあるし、裕介さんもあと数時間したら花の競りがあるとか言い出した。じゃあ寝ようかと話したのに、明日は臨時休業だなとか言って、挿入れはしないものの、何度もイかされて、イかせた。


 空が白んできたころ、ようやく体が解放されて、俺は学校になんて行けるはずがなかった。けれど今日が土曜日だということに気づいて、安心してぐっすり睡眠を取った。
 暖かな体に、広めのベッドに包まれて。



 ――――恋人ができた。


 羊の皮をかぶった狼みたいな人だけどそれでも俺は幸せで檻のように俺を囲む体に抱きついて、

 ニヤリとゆるむ頬は仕方ないだろう? アンタは檻の中に俺を無理矢理閉じ込めたように思うかもしれないけど、そう見せて俺は自分から飛び込んだんだ。

 幸せは自分でつかみとる。

 今はまだ残る心の痼りも、いずれ必ず溶かしてみせる。ただ今は、この温もりに包まれて

 ――新しい幸福の明日を思う。



END.


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