3
女に告白したことはあったけど、こんなに緊張しなかった。心臓吐き出しそう。
ドキドキしすぎて若干具合の悪くなりつつも見つめた彼の顔は驚きに見開かれ、そのあとにやりと歪んだ。
「俺のことを?」
「う……ん」
「へぇ」
にやにや笑うこの顔にすらドキドキしてきた。
絶対そういうときめき要素はないはずなのに。
むしろ腹立たしい表情のはずなのに。
「ねえ洋平? それって俺とこーゆーことしたいってコト?」
なんで俺の名前知ってんの?とか思う前に、後頭部を引き寄せられて、唇に唇が触れた。ちゅっと軽い音をたたせて離れる唇に、体温がまたあがる。
「ねぇ、どーなの?」
至近距離でささやかれて、背筋をぞくっとした何かが駆け上がる。
「ねーえ」
「わかんなっ」
今度は頬を撫でられて答えを催促された。とっさに出た声は震えて、彼に笑われた。
「したいって言えば、してあげるよ」
だから言いなよと笑う彼は、甘美な毒のようだった。きっとこれはよくない。俺の望むのとは、違う展開のはずだ。
だけど、震える唇が、言葉を紡ぐ。
「して……」
「何を?」
にやりと笑う、この男に、毒を盛られてるようだ。そして毒を仕込む瞬間をこの目で確認しているにもかかわらずその毒を喜んで飲む俺は、バカだ。
「……もっと、キス」
言った瞬間に、唇が降ってきた。何度も何度も重なる柔らかいキスに、ゆっくり目を閉じる。するとぬるりとしたものが唇を撫ぜた。びっくりして口をひらくと、それが中に潜り込む。
ああ、ディープキスってこーゆーのなんだって、暢気に思った。
「かーわいい」
唇が離された時には、息があがっていた。そんな俺の鼻先にキスをして、彼は笑う。
宥めるように頭を撫でられ、目尻にキスをされた。
「ねえ洋平? 井上くんはいいの?」
「だから、井上は違うってば」
「でも井上くんはそうじゃないでしょ?」
言われてから、そんなのどうでもいいと思っている自分の酷さに気づいた。俺のことを鈍感だとでも思いながら、ストレートに思いをぶつけてきた井上の笑顔を思い出して、それでも目の前のこの人しか、俺の目には入らないんだ。だから俺は井上の好意をうけいれられない。
「でも、俺はっ」
「いいんなら、いいんだ」
人差し指が俺の唇に触れて、言葉を封じる。ずるいと思った。だけどそのずるい人は全部をわかっていながら何の対処もせずに、むしろ演技をする俺自身なのか、それとも何も言わせずやさしく笑ったこの人になのか、わからなかった。
ぼんやりと、ただ促されるまま席を立つと、ぎゅっと身体が暖かさに包まれた。
「ねえ洋平? お母さんに、今日は友達の家に泊まるって連絡して」
「な、なんで?」
「わかるでしょ」
耳元で囁かれて、体が勝手に震える。顔が赤くなる。だけど、こくんと素直に頷いてしまった。そんな俺に、バカだな、と心の中の冷静な俺が嘲笑する。期待してんのか、ほんと、お前は駄目なやつだなって。
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