突発雑記帳
ファーストフード
気づいてしまった。
その瞬間、心臓を捕まれて
頭が機能しなくなった。
「……ッ」
今、通過したファーストフード店にいた人を、知っている気がする。
というか、きっと、知ってる。
「ん?どうした?」
「ゴ、ゴメン。今、あいつのこと、見つけて」
「あいつって……アイツ?」
「たぶん…」
運転席で変な表情をし出したオレに気づいて、後部座席から同乗者に声をかけられた。ルームミラーでその心配そうな顔を確認しながら、ウィンカーを右に光らせた。
このコンビニの駐車場で車を回して、もう一度あいつかどうか確認しよう。
なぜか頭にはそのことがしかなかった。
「おい?」
「確認!確認、するだけだからっ」
「ったく」
同乗している弟はため息をつくと、再び車道に戻った車から窓の外を眺めた。けれど眺めているだけで、それ以外何も言わなかった。
車は少し走って信号で止まった。そこはちょうどファーストフード店が見える、最高の位置だ。
「…やっぱり」
そこから見えたのは、数ヶ月ぶりに会う、アイツ。オレが電話で一方的に別れを告げた相手だった。
「ドライブスルー、寄って」
「……ゴメン」
「腹減ってただけ」
窓に向かってぶっきらぼうに言う弟に、申し訳なさを感じた。けれど車は店に入るために進行方向を変え、左にウィンカーを出して、ドライブスルーのレーンに入った。
近づいて初めてアイツが誰かと電話していることに気づいた。そして車は近づく。窓を挟んで店内にいるアイツをじっと見つめても、アイツはオレに気づかない。
「……いーの?」
「なに…?」
「会わなくていーの?」
「ん」
「オレ運転代わるよ」
「や、でも……」
前の車が進んで、オレも車を進めた。店に沿うゆるやかなカーブの先の注文スペースに来ると、もうアイツは見えなくなった。
『いらっしゃいませ』
スピーカーから聞こえる店員の声に応えてメニューを注文して、精算の順番待ちに車を進める。
前の車は会計に少し手間取っている。車を降りるなら、今しかない。
「ゴメン、やっぱ代わって」
サイドブレーキを引いて、ギアをパーキングに入れ、慌てて車を降りた。振り返らずに、ただ店に入り、アイツの座っていた場所を目指す。
「うん、そう。ハハ」
近づいて、聞こえた声に、頭が麻痺した。
その背中に指が伸びて、小さくつついた。
アイツが振り返って、一瞬顔がこわばって。
怖くなったのは、オレだった。
「ごめん小田、また電話する。かけ直すから。違う、違うって。とりあえず切るから……は?」
電話の相手に早口で話かけるコイツに手を振って、くるりと踵を返す。何やってるんだって、冷静になった自分が頭の中でじたんだを踏んだ。
「ミヤギ!!」
呼ばれた名前も、
つかまれた腕も、
ぜんぶを振り切って
「ッ、出して!!」
「あん?」
「早く!!車出して!!」
逃げ出して、
車に飛び乗って、
アイツの手の届かないところへ
つかまれた腕が熱い。
つかまれた心が、痛い。
「ファーストフード」END
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この子はなにがしたかったんだろう。
恋は衝動ってことですかね…
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