突発雑記帳
カミングアウト
「なあ聞いてくれる?」
「なんだよ」
「つうか、お前にはいっとけって言われたから言うけど」
バイトでレジ締めを終えてロッカーで着替えて、同じく終礼までのシフトだった同期のやつを待ってた時だ。
同じく同期でバイトに入ったこいつは、にやりとも、照れもせず、淡々と言った。
「又吉さまと付き合ってるの、オレなんだ」
「へ?」
変な声が出てしまった。いやいや、待ってくれ。思考が追いつかん。
「黙ってて悪かった。でも内緒にしようって決めてたんだ」
「あ、えっ…と、」
「うん」
「いつ、から?」
「明日で5ヶ月」
くらりと頭が溶けそうだ。
又吉さまというのは、バイトでかなりお仕事のできるフリーターさん(♀)。バンキャさんで、かなりコアなバンドを追っかけまわしてる。
オレと、こいつ――成田と、今待ってる同期の女の松前と又吉さまは、バイトメンバーでも別格で仲が良い。そう思ってた。
なのに。
何故黙ってた?内緒にしてた?5ヶ月って。こいつ、オレも非リアだっつってたじゃねぇか。
「いやいや!!聞いてねぇし!!」
「言ってねぇもん」
「言えよ!!」
「ははっ」
「笑ってんなよ……」
なんだこれ。
胸にぽっかり、穴があいたような。なんなんだよ。
「これからマミと一緒に飲みいくけど、松前も誘ってお前も来ない?」
「……ッ」
「あたしがなんだってー?」
断ろうとした時、ちょうど松前が現れた。なんだよ、タイミング悪ぃな。
「これからマミと飲み行くけど、お前らも来ない?」
「いーね!行く行くっ。話聞きたいしねー」
「ま、松前も知ってたの?」
「昨日又吉さまとシフト一緒で、そん時に聞いた」
にこにこと笑って、松前はおめでとうと言った。成田も笑って、気づいたように財布からリングを取り出して左手にはめた。
笑えねぇ。
「っしゃ、行こうぜ」
前を歩く成田の背を見ながら、崩れる心の中で泣き叫ぶ。
叶わないとは思ってた。
だけど、まさかこんな――
「くそ、リア充爆発しろ!!」
今はこうしてお前の頭をはたくだけで精一杯だ。
くそ……
失恋して、好きなヤツの彼女と飲むなんて。
笑えねぇ。
まじで。
「カミングアウト」END
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