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突発雑記帳
チャリンコライダーマン3
 目を疑った。ふっとんでいったから。目の前で、だいすきなやつが。
 オレの通う高校は、かなり交通の便が悪い。というか、学校に行くためには、もはや斜面というべき坂道を通る必要がある。最寄り駅から徒歩で30分以上と言う立地の悪さから自転車通学者は多いが、この坂道はチャリに乗りながら上ることも下ることも不可能である。
 オレの好きなやつは、その坂をチャリで颯爽と下る。顔を覆うゴーグルに、マントをなびかせて。まさにそれは幼い頃からあこがれたヒーローそのものだ。まあ、ヒーローはたいていチャリじゃなくてバイクにまたがっていたが。さらに言えば、顔が見えなかったのは分厚いメガネが光に反射していたからで、マントだと思っていたのは肩にかけられた学ランであって、やつはただの学生だった。
 ヒーローの名前はヒロキという。学年は1つ下で、ガリベンメガネのくせに落ちこぼれで、運動神経だけが取り柄なのに、母子家庭で貧しいとかで、部活には所属していない。日課はお気に入りのスーパーの特売チェック。まさにその特売のために、ヒロキはチャリで坂を下る。

「・・・・・ギャー!!!!!!」

 そんなヒロキはいつものように、一緒に下校しようと校門で待っていたオレの横をチャリで素通りしていった。けれど負けずに名前を呼ぶと、今日はカップラーメンが1つ80円だと叫んでいった。いつもの通りため息をついて、ヒロキを見送るために坂が見えるところまで出た瞬間、目の前のチャリが吹っ飛んだ。もちろんヒロキも吹っ飛んだ。

「あ、あ、あ、あ、あああ!?」

 目の前の光景が全く信じられない。とりあえず叫びながら吹っ飛んだチャリに駆け寄ると、ヒロキはぐったりと意識を失っていた。・・・と思いきや、むくっと起き上がった。

「やっべ、見た?見た?今の。やばくない?」
「バカかお前!ちょ、ケガ・・・ケガは?」
「んー、なんかいろいろ擦り傷あるけど。まぁ、無事っちゃ無事じゃね?」
「いや、お前もっと、え!?」
「なに?先輩、そんなあわてんなって。オレは平気だよー」
「あああ、もうお前やだ。心臓止まるかと思った・・・」
「ハハハ、かーわーいー」

 へたりこんだオレを見てケラケラ笑って、ヒロキが首をかしげた。

「先輩、オレ今日の特売間に合わないかな」
「・・・チャリ崩壊してんぞ。無理だろ」
「あーあ、三日前から今日だけを楽しみに生きてたのに」
「つうかマジで。お前この坂チャリで下るの止めろ。いつか死ぬぞ」

 特売に間に合わないことを思ってしょぼくれたヒロキが、オレの忠告にまたにやりと笑った。

「オレが死んだら、寂しい?」
「っつーか、ヒーローは死なないっていうオレの方程式が崩壊する」

 理想のヒーロー像っていうか、ヒーローの公式っていうか。絶対に死なないはずのヒーローが、こんなとこで死んだら、オレの今までの憧れがすべて崩壊してしまう。そんなのは嫌だ。それに、ヒロキが死ぬのも嫌だ。

「先輩ってさ、時々めっちゃかわいいよね」

 にやりから、にっこりに笑みが変わる。そのまま頭がなでられた。子ども扱いにちょっとむっとして、ヒロキの鼻をつまんでみる。

「んぐ」
「・・・まじで、約束しろ」
「無理。特売いけなくなったら家計崩壊して、オレ学校やめなきゃならなくなる。それに、先輩にあえなくなっちゃうじゃねーっすか」

 にっこりから、にやりに笑みが戻る。けれど、なんとなく、それはただの──

「お前さ、時々すげぇかわいく見えるわ」
「っつーかこのギャラリーの中でちゅーしてくる先輩にドン引きっす」

 オレを思いっきり突き飛ばしたヒロキに、今度はオレがにやりと笑う。オレのはヒロキとは違う。ただのにやりという笑いで、照れ隠しなんかじゃない。

「ヒーロー」
「あん?」
「次ここでこけたら、命ないと思え」
「いやいや、なんとかなるっしょー」
「なんとかなるか!っつーかオレの心臓が止まってオレが死ぬ!」

 ぶはっと噴出したヒロキにチョップをくれて、顔を真っ青にした保険医に傷の手当をされるヒロキをぐっとにらみつけると首をすくめて笑われた。
 それに、これはオレだけの内緒だが。チャリが吹っ飛んだ瞬間、本気で心配して心臓が止まりそうになったのも事実だが、それと同時に、はためいた学ランがマントに見えて、さながらヒーローが敵の攻撃をよけたかのようで、ちょっと見惚れてしまったのだ。やつはいつも、予想外の行動をする。それはオレの心臓を止めようとしているかのようで、けれど、格好良くて、オレはいつだって───

「せんぱーい、しみるー、痛いー」
「自業自得だ。うるせぇ」



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チャリンコライダーマン03
「ふっとんで、着地して」
(ウロコボーイズ「転」出品作品)




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