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突発雑記帳
チャリンコライダーマン

―――唐突だが、オレは小さい頃、ヒーローに憧れていた。
どんな敵にも立ち向かい、何度倒されても立ち上がり、正義のために戦い続ける。
将来、オレはヒーローになるんだ、って思ってた。
幼稚園のころ、友達とのヒーローごっこでは何があってもワルモノ役はやらなかった。
小学校のころも、その戦いは続いていて、向かってくる敵は、どんなやつだろうと戦って勝利してきた。
それは中学も同様だった。
敵もレベルアップはしていたから、オレだって常に無傷ではなかったが、つけられた傷も、ヒーローの勲章だろう。

しかし、高校に入学すると、まわりの連中はヒソヒソとオレの噂話を始めた。
その一部を紹介すれば「なんであいつがココに!?」「オレたちが巻き込まれたら…」「不良がいるなんて、ウチの品格が……」等々。
いくらオレでも気づく。
これはヒーローへの羨望でも、感謝の言葉でもない。
やつらがオレに向けたのは、まるで敵に対するような、恐怖の言葉だ。

ちなみに、オレが通うのは私立山香峰(ヤマガミネ)高校。
県下屈指の進学校として有名で、文武両道がモットー。
偏差値もやたら高いのだが、オレにはそんなもの敵ではない。
さらに、古き伝統校として名高いこの高校は、偏差値の他にも有名なことがある。
それは文武両道によるスポーツの強さであったりもするが、それ以上に有名なものがあるのだ。
それが、学校にいたるまで続く【峰坂】である。
もはや坂なんかじゃない、斜面だ。

私立のバカでかい敷地確保には山が最適だったのは過去も同じで、この高校は山の頂上に君臨している。
この山は駅から遠く、通学するにはラッシュ時も1時間に3本しかない路線バスを利用するか、自転車か、さもなくば45分間の徒歩登山をするか。
もはや選択肢は自転車のみである。
そんなわけで、この高校の生徒の大半は自転車で通学しているが、この坂に戦いを挑むのは、入学当初の体力自慢の1年生だけだ。
しかし1度トライすれば、誰だってあきらめるだろう。
【峰坂】とは、そんな避けられない斜面であった。

きっと戦いの敗北とは上りを意味するのだと勘違いするものもいるだろうが、それは違う。
最も恐ろしいのは下りだ。

下校時の自転車は、必ず坂を下ったあとで

山香峰高校の最大の教訓である。
あの【峰坂】の急斜面で自転車にまたがったまま滑走すると、いまだかつて自転車ではありえない速度が体感できる。
そしてその速度は、一度達すれば坂を下り終えるまで、加速の一途をたどる。
幾度となくバカが挑戦し、自転車からはじき飛ばされ、骨折等々の惨事が発生してきた。
まさに魔の坂だ。


――そしてオレはヒーローに出会った。
峰坂を、自転車で急降下してくる、ヒーローに。
マントをはためかせ、翻し、顔を隠すシールドを装着して。
そのヒーローは一瞬で横を通過して、坂の彼方へと消えてしまったが。
ヒーローがいた。
ホンモノのヒーローが、現実に。
あまりの衝撃にその一瞬でビリリと鳥肌がたった。




嗚呼、




「――弟子に」




弟子に、なりたい。


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チャリンコライダーマン
(素直不良×変人)




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