突発雑記帳
オージサマのセカイ2
風にそよぐその髪は、まるで漆黒を漂う蝶々のようだ。ああそなたの止まり木は私であろうな。アンリ。
ああその漆黒の瞳。夜の闇を宿すそなたこそが、この世界、否、輝く星か。我こそがその星を導かんぞ、アンリ。
照れずともよい。そなたの瞳さえ私をとらえておれば、それでよい。その髪は何人にも触れさすまいぞ。お前のすべては私のもの。私が見つけた、漆黒のダイヤモンド。ああ、そなたのことだ、アンリ。
「って感じで、触られるとまずいんすけど」
非常にまずいと思います。オレの身も、あなたの身も。そう思いながらじっと相手を見つめると、その顔色がじわりじわりと蒼くなっていった。
あのバカ王子に連れられて、隣国のパーティーに来たはいいものの。様々な有力者さんたちに囲まれた王子様はオレを放置。この世界に不慣れなオレはため息混じりに中庭散策をしていただけなのに。
フィンとはまた違ったタイプのイケメンに迫られた。この闇の中溶けるような漆黒の姫君よ、とか言われて膝をつかれて手をとられて口づけられた。手に、ですが。
しかしオレの中の警報がフル稼働した。やばいんじゃない?っつって。
だってオレ、飼われてる分際だし。
こっちの世界に吹っ飛ばされて、フィンに拾われて、屋敷に住まわせてもらってる。それは単にオレの髪やら目やらの色のせいだけど、それでもフィンに大切にされてるのは事実だ。
最初のころ、元の世界を求めて発狂しかかってたオレを宥めてくれたのも。泣きじゃくるオレを抱きしめてくれたのも。怯えて眠れなかったオレの髪をなでてくれたのも。全部フィンがしてくれた。
それを愛と勘違いしたのはオレだけど、それに報いたいと思う気持ちは嘘じゃない。
「オレ、戻りますから」
「……黒曜の君」
「……それ、オレのことですか?」
「お前を囲うフィンという者が、シュナイコフ・エザン・フィナンシェであろうとも、もはや我は気にせぬ」
「……あれ?」
「そうとも。その髪、その瞳。悪魔に魅入られたそなたの存在こそが我が力とならん。もはやお前を手放さんことこそ、我が身を守る楯となろう」
どうしよう。この人の言ってる意味がわからない。何言ってんの?
「そなたの名を我に預けよ。されば我は力を得よう。さあ、お前の名を、我に――」
「誰がお前に!!」
「教えてはならん」
目の前の美形がにやりと笑んで、両腕を広げた。オレがとっさに拒否の言葉を吐いたと同時に、鈴の音のような美しい声が響いた。
はっと振り向けば、そこにはフィンがいて。冷徹な笑みを浮かべて、歩み寄っていた。
「お前は私の宝玉に傷をつけたな。さらにはそれに止まらず、わしの手からその石を奪おうとしおった」
「…あ、ああああ」
「この罪、どう償わせたらよいか?」
「ひぃぃッ」
歩み寄ったフィンがオレの肩を抱いて、笑った。その美しく、それでいて残虐なその笑みが深くなるごとに、目の前の男がひどく哀れに怯えた。
「ああ黒曜、わが君、愛しき姫よ。お前も私との約束を簡単に破る」
「フィン、でも」
「次はないと思え。誰にも触れさせるな」
ちゅ、と頬に柔らかなキスを一片。それを甘受すると、パーティー会場へ戻るように促された。
フィンは、きれいで格好良くて、オレを大事にしてくれる、オレの大事な人。だけどその真意はつかめないまま。底なしの暗い愛が、オレのココロを蝕む。
異世界の異端を愛す?
まさかそんな、笑わせるな
そんなこと、アルハズガナイ
オージサマのセカイ 2
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