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突発雑記帳
雨降りの傘

「は、……死にたい」

  そう呟いて一粒頬を伝ったのは涙か、それとも、突然降り出して髪を濡らす雨の雫だったのか。
  多くの人が雨を避けようと傘を開いたり屋根の下に駆け込むのを横目に、慌てもせず横断歩道の信号が変わるのを待つ、スーツの男。
  背は高く、雨で潰れた髪は黒くて長めで、その顔は酷く整っている。はじめは、こんなかっこいい人も雨に濡れちゃってかわいそうだなぁって、そう思って見ていたんだ。それがまさか、あまりの無表情であんなことを言うから、

「……ッ、」

  気になっちゃうじゃないか。

  青に変わった信号に、雨なんて降ってないみたいに、しゃんと背を伸ばして自殺志願者が横断歩道を渡って行く。色とりどりの傘に、カバンを掲げて走る人に紛れて、その背中はすぐに見えなくなった。
  信号は点滅して、ほどなく赤になった。一歩も動けず立ち尽くしたままで目を凝らした向こう岸を、行き交う車の隙間から覗き見る。

「……、死にたい」

  胸に刺さる。一言が、痛い。痛くて痛くて、涙が出そうだ。

「死ぬ?」

  だけど、

「そんなこと、許すわけないだろ。行くぞ」

  オレには、傘を差し出してくれる人がいるから。

  ふらふらと屋根から抜け出てびしょぬれになったオレをバカにしたような目で見下しながら、買ってきたばかりのビニール傘でオレを濡らすまいとしてくれるから、お前の肩も背中も頭も濡れてしまっている。

「帰るぞ」

  大きめの傘だけど、ふたりにはちょっと狭い。びしょぬれのオレなんて放って置いてくれたらいいのに。

「……うん」

  手を延ばして頬を拭われた。頬を伝ったのその一粒は涙だったか、それとも、突然降り出して髪を濡らす雨の雫だったのか。



「雨降りの傘」-END-


受け溺愛のくせに素直じゃない攻め×過去あり受け?元ビッチ受け?
他の男にときめいたり、過去がフラッシュバックしたりするけど、それでも攻めが大好き。みたいな受けが書きたくなったんです


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