黒髪男子の心情 1 「ただいま……」 ああ疲れた。玄関に置いた某ネズミ王国のデザートについてきたネズミ型の皿に鍵を投げた。 革靴を適当に脱ぎ散らかして、腕時計をはずしつつリビングの電気をつける。あかりのついたリビングで奮発したお気に入りソファーにダイブする。 社会人2年目。山下歴4年目。どうも山田です。 就活はじまって4月あたり、面接をすれば怒られてばかりだったオレは何故か有名企業に内定をいただき、営業くんとして慌ただしい毎日を過ごしてます。 ぶっちゃけ社会人しんどい。大学のあのゆったりゆるやかなモラ期に帰還したい。仕事はキツイし、上司も同僚もみんないい人ばかりだけど付き合いは面倒だし。なによりも家事がね。 まじ親の有り難みを把握した。洗濯機につっこんどきゃ畳まれて返ってくる服とか、アイロンがけとかさ。腹へったって言やぁ出てくる飯とか、洗い物とか。ゴミ捨てとか。 うつ伏せになってた頭をちょっとずらしてキッチンの方を向く。冷蔵庫の脇にあるホワイトボードには今週の家事分担が書かれてる。 「……飯担じゃねぇかまじかよ」 社会人2年目。山下歴4年目。同棲3ヶ月。 ……ぶふっ、同棲って!! なんだそれ笑える。いわゆるっつうかただのルームシェアですからね。うん。 この春山下は大学院を出た。たった1年で出てきた。飽きたもんとかのたまった。まあ嘘だろうけど。 言わないけど、山下はやりたかった研究をしっかりやり終えたみたい。もう院やめるっつって散々教授に引き留められてた。ドクター取って僕の後任を!!とか縋られて。まあ一蹴してたけど。 そんでやはり山下は山下だから、さくっと就職決めて働いてる。そういうやることやれるムカツクやつなんだよ、山下っつーのは。 あいつが院いって、オレが社会の厳しさに直面してた去年は、かなり会えなくなった。山下の引きこもり場所は研究室になって、オレも職場と家(まだ実家でした)を行き来するばっかで。 山下には土日なんかないからオレが休みでも意味ないし。ほんとに会えなくて、結構しんどかった。 同期の何人かとめっちゃ仲良くなって毎週末飲み会をひらいても、山下がいないってだけで笑えなくなったり。なんか散々だった。 だから山下が院を出て就職するってなって。今住んでるとこ出るから部屋探し手伝えって呼び出されて。ワンルームをまったく見ようともせずに2LDKのよさげなアパートに部屋を決めて、お前どっちの個室にする?って聞かれた時の喜びはハンパなかった。 一緒にいるかいないかがこんなに意味があるなんて。しかも一緒にいるのは山下だから、基本的に放置してくれて。男とルームシェアってどうなの?と言う同期には悪いけど、オレは今だいぶ幸せです。 [*前へ][次へ#] [戻る] |