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黒髪男子の心情


「うわぁぁぁん!」

 思いっきり泣きじゃくる山田をできる限りの力で抱きしめて、ゴメンと何度もささやいた。それでも山田は泣き止まないし、泣き喚きやまないし、ちょっと困る。でも、それだけ不安にさせてしまったのかと思うと、もう泣きたいだけ泣かせてやろうという気にしかならない。

「っ、やまし、たッ、」
「ん」
「・・・うっ、うぁ、やましたぁぁ」
「うん、ごめんな」

 わあわぁ泣いてたのから、徐々にグスグスくらいになってきたと思ったら、いきなりドスっと山田の体が重くなった。ちょっと待て!実際オレより山田のがタッパあるのにこれは重い!重すぎる!

「っおい、山田?」

 ちょっとあわてて声をかけると、聞こえてきたのはまさかの寝息。

「おーい!重いだろうが!山田ーっ!」
「あはは、タイチ寝ちゃったねぇ」
「まああんだけ酒のみゃ眠くもなるだろうけど」

 あわてるオレを助けてくれたのは、櫻さんと、知らんおっさんだった。おっさんは、オレの背中をがっちりホールドしている山田の腕を解いてくれて、全力でオレにもたれかかる山田は櫻さんが抱えあげてくれた。

「ちょっとソファで寝かせとこっか」
「あ、ハイ」

 上半身を櫻さんに任せて、山田の足を持ち上げる。二人がかりで山田をソファに寝かせると、ふぅと一息ついて。ほっとしてたのもつかの間、オレが誰かにおもいっきり拳骨を入れられた。

「いって!」
「ったく、お前が坊主の男か?」
「え、あ、ああ、ハイ」
「まー顔はイケメンだけどなぁ」

 拳骨の犯人は、知らんおっさんの方だった。しげしげとオレの顔を眺めてはいるけど、いや、眉間のしわ怖いっす。

「まあまあ三上さん。それよりも山下くーん。なんでココがわかったのかなー?」

 前言撤回。笑ってる櫻さんのほうが断然怖いっす。



 酒を飲む気にはなれなくて水をもらっていったん席に落ち着いた。興味津々な櫻さんにミナの裏技を暴露すると、チッと舌打ちされてマジでビビった。

「ったく。南さえ出てこなかったら今頃オレはタイチのこと抱けてたのに」
「おいおい櫻ー。オレの前であんま露骨なコト言うなよ、想像しちまうだろうが」

 にやっと笑うおっさんは、三上という常連だと教えてもらったが。いやいやおっさん、想像すんなよ。

「アイツ、そんなに凹んでましたか?」
「まーね。なんか、いつか別れようって言われるくらいならオレから別れたほうがまだマシだと思うんです、とか言ってたからさぁ。ちょっと口説いちゃった」

 えへって笑われてもかわいくないからな、櫻さん。思わず深いため息をつくと、おっさんに再び拳固とくらった。この人手癖悪い!

「お前がちゃんと小僧を見ててやらんから櫻みたいなヤツにかっさらわれそうになるんだよ」
「ハイ、すいません」
「ちゃんと話し合って、一緒に考えてやれ」
「ハイ、そうします」

 ただし言ってることが正論だから何も言い返せない。もうこの場に居辛くてしょうがなくて、オレは早々に帰ることを決意した。

「すいません、櫻さん。三上さんも、お世話になりました。山田は連れて帰ります」
「おう、そーしてやれ。背負えるか?」
「・・・どう思います?」
「・・・無理だろうなぁ」

 とりあえずご馳走様をして席をたってソファに寝転がる山田に近づいてみたけれど、起きる気配はほぼない。そうしたら背負って表通りまで出てタクシーを拾うほかないんだろうけれど、山田はデカい、オレよりも。
 どうだろうかと首を傾げればやはり無理だろう宣言。三上さん、あんたやっぱ冷静な大人だよ。

「仕方ない。オレもついでに帰るか。小僧背負うの、手伝ってやるよ」
「ホントすいません、お世話かけます」
「気にすんな」
「櫻さん、ほんとにお世話になりました」
「うん、ふざけんなってタイチに言っといて。とりあえず近いうちに顔出さなかったらぶっ飛ばすって」
「・・・ハイ」

 思わず苦笑しつつ、三上さんに手伝ってもらいながら山田を背負い上げた。重すぎる。

 もう一度ちゃんとお礼を言って、山田を背負って店を出る。ほんとなんでこの店地下にあんの?階段、まじでしんどい。

 それから大通りまで出て、三上さんにタクシー拾ってもらった。ホントにこの人、口は悪いし手癖も悪いけど、いい人だった。ありがとうございますを何度も言って、オレと山田はようやく、家を目指して帰路についた。

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