黒髪男子の心情 3 二人で入った公園は、ちっさいもんだった。 山下と二人で出かけたっつっても歩いた距離はそう多くない。コイツのアパートから駅に背を向けてスタスタ歩いたらたどり着いたのは住宅街。でも平日の真昼間な現在にガキがいるわけもなく、しーんと静まり返る、閑静な住宅街の隅にある、小さな公園に、人影はなかった。 3段の小さな階段を上って、ほんの少し高い場所にある公園には3つの鉄棒に、2人分のブランコ、3人がけくらいのベンチが4つ。ジャングルジムもあったけど、山下が真っ先に向かったのは自販機だった。 「のどかわいた。ダーヤマは?」 「んー、ほどほどに」 ぽっけに突っ込んだサイフをあさった山下は「ん」と返事をすると小銭を自販機に突っ込んでボタンを押して。取り出した缶をオレに投げてきた。 手に落ちたのは冷たい缶。有名な赤い缶は誰もが知る炭酸飲料。 「だから!振ったら爆発すんだろーが!」 思いっきり投げ飛ばされて思いっきりオレの手に落ちてきた炭酸がどんな刺激を受けたかと思うとドキっとしてしまう。そんなオレに余裕の笑みを浮かべた山下は自分用の缶を拾い上げて、まっすぐブランコへと向かっていった。 「あー、やっぱあっちーな」 「もう5月もなかばだかんなー」 隣り合わせにブランコに座って、山下は缶のタブを引いた。ちらっと見た缶はブラックコーヒーっぽい。ごくりと飲み込む喉のうごきがなんか・・・うん。やめよ、変態っぽいから。 山下を外に誘う口実につかった天気いーよーだったり、あったかくなってきた、っていうのも、実際外に出たらちょっと汗かきそうなほど暑い。でも夏のじとっとした感じがないから、結構快適。 「んー・・・なんか久々に外出た気ぃするわー」 「それはお前がヒッキーだからだ」 ぐーっと伸びをした山下につっこむと、にやっと笑うだけで何も返されなかった。でもその笑顔反則だからな山下!お前なまじ顔整ってるもんだから、そんな風に笑われるとぐはってなるだろーが! あんまり見ないようにしようと山下から顔を背けておごってもらった缶を開けた。心配してたけどシュカッといういい音が響いただけで噴水は発射されなかった。ほっと胸をなでおろしてゴクゴクを缶に口をつけると、シュワシュワはじける感じが爽快です。 「うっまー」 「ほんと、お前ガキっぽいな」 キィっと鎖をきしませてブランコをこぎ始めた山下はそんなことを言って笑う。キィ、キィと規則正しい振り子運動が、ガキんころはすげぇ好きだったなぁと思いながら、オレもブランコを揺らした。 「・・・」 「・・・」 キィ、キィときしむブランコ。たまに缶に口をつけたりしながらも、特に会話はない。思いっきり高くこぐわけでもなく、それなりのゆれ幅で。それでも体重だって違うからリズムがちょっとずつずれて、オレが先に前にいったり、同時に前に進んだり。 ちらっと盗み見た山下はぼーっとしながらも、だけど、もくもくとブランコをこいでいて。なんかその幼い感じがすげぇかわいく見えた。 「ふっ・・・」 「ハハッ」 笑い出したのは、どっちが先だったろう。 いつの間にか笑いがこぼれて、シュールだ!とか、くそつまんねぇ!とか言いながら、だけどブランコを揺らし続けて、ふたりで笑った。 何気ない。 何気ない毎日。 それがいつまで続くかはわかんないけど、 「っとう!」 いつの間にか思いっきり高くでかくブランコをこいでた山下が変な掛け声と同時に空に飛び出していった。ズシャっと砂を滑らせる音に着地を決めた山下は、同時にうっわ!と悲鳴を上げた。 「やべー!コーヒーかぶったー!」 「バーカ」 手に持ってたコーヒーの缶にまだ中身が残ってたみたいだ。グレーのパーカーにくっきりとコーヒー色のしみがついてるのをみて、山下はたいそうあわてていた。かわいーなー、くそう。 「まあいーか。どーせ部屋着だし」 はぁとため息をついてそう結論付けた山下は、今度はジャングルジムに登り始めた。ゆっくりとブランコをとめながら見ていると、スルスルと器用にジャングルジムを上りきる山下は、てっぺんに座ってまた伸びをしていた。 その背中がなんかガキっぽいなーなんて見てたら、背後から本物のガキっぽい声が公園に飛び込んできた。 「あー、誰かいるー!」 「マジだー」 「おいおっさんブランコ代われよー!」 現れたのは5人のガキ。総じて全部男。推定小学校低学年。おっさんと呼ばれたオレはブランコを奪われ、さっきまで静かだった公園は一気ににぎやかになる。 「ハハ、おっさーん!」 「うるせぇぞ山下!うぉっ」 ジャングルジムのてっぺんからオレをバカにする山下に声を返していると、ドスっと腰に強い衝撃。反射的に抱きとめると、それはガキの中のひとりだった。 「おいおっさん!遊べよ!」 「え?」 「おーい、お前らもこいよー!このおっさん、オレらと遊びたいってよ!」 「言ってない。言ってないだろおい」 オレの服を握ったまま、ガキがそんな風に呼びかけるから。公園にいた5人のガキ全員がオレのもとに集まり、遊べよ遊べよと無駄にウザイ絡みをしてきた。 心底困ってしまったオレがオロオロとしていると、山下が笑いながらジャングルジムを降りてきた。 「よし、仕方ねぇな。遊んでやろー、ガキども」 「はぁ?ガキじゃねぇし!」 「あん?お兄さんが遊んでやるっつってんだ。喜べ」 なんて、ガキどもの中でもオレに真っ先に絡んできたやつと軽口の応酬をしつつも、どうやら本気で遊んでやる気らしい。じゃあカゲオニな!と種目まで決定して、気づけばじゃんけんの鬼決めにも参加していた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |