黒髪男子の心情 2 えー、こういうときってどーしたらいーの? オレなんかビビリーだからさー、もはや横を歩くことすらできてない現状なんですけど。そしてこの現状を打破したいんですけど。 だが怖い。 こっそり背後から伺う山下は明らかに不機嫌オーラを隠そうともしないし、だからこれ以上過剰にかまうのってためらわれて。だったらなんでオレが山下を連れ出したのか、とかもはやいろいろわかんねぇし。 「うーん・・・」 思わず苦笑してしまう。まあこーやって外歩くのも一応お散歩ってことになんのかな。 ・・・いや、ならんだろーな。 ってさっきから何度もグルグル考えて、苦笑して。せっかく出かけてんのになんだかなーって。つうかこの状況ってシュールだよなーって。考えては、苦笑するしかないって、思ってた。 「・・・きも・・・っ、ぶは、キモイ!」 っていう山下の噴出す声が聞こえなければ。 「おま、お前、なに一人でニヤニヤしてんの?キモイ!まじウケル!」 ブハハハとかいうぜんぜんかわいくない笑い方で、山下は腹を抱えて笑った。なにそれ。 不機嫌オーラ全開の山下を観察して苦笑(ええ、苦笑です。ニヤニヤしてたわけでは決してありません)していたオレを、何の気まぐれか山下が振り返ったらしい。そしてそんな苦笑を見て、ツボったらしい。 「おま、お前ー!!」 「うるせぇ!騒ぐな、目立つだろーが!」 いっそ指まで指されてなみだ目で笑われるとすがすがしいっつーか、いや、うそ。完全にイラっとするわ。 だんだんご近所迷惑レベルで騒ぎはじめた山下の頭を一発殴ると、腕を引いてこの場の脱出を試みることにした。逃げよう。っていうかどっか動こう。 「はー、ウケたー」 「何がだっつーんだよ、バカ」 ちょっと早足で強引に山下の腕を引いて歩くと、しばらくして落ち着いたらしい山下がクスクス笑って目じりの涙をぬぐった。まるでいたずらが成功したような表情でオレの顔を覗き見る山下は、まぁかわいらしいっていうよりは憎らしいまでに完璧な笑顔です。 「お前さー、オレに完全にいじめられてなんで笑ってんの?エムなの?」 「はぁ?」 「普通シカトされてあんな扱い受けて笑う?まじウケル。お前ちょーかわいー」 意味がわからん。 なぜオレはエム認定されてかわいがられたんだ。 しかも腕をつかんでた手は解かれて、その手はオレの頭をなでてるし。 「触んな」 「ぷ、ご機嫌ナナメになっちゃったー?」 いや、いい年して頭なでられるのなんてたいていの男は嫌がるでしょ。ぺしっと手を払ったらさっきまでのひっくいテンションはなんだったの?ってくらいご機嫌な山下に微笑まれて。 「!」 さらには手をつながれた。指ががっちり絡む、いわゆる恋人つなぎってやつ? 「・・・ふ、ホント、お前かわいーな」 「うるさい」 みなまで言うな、自覚してんだ。つながれた手に、力を入れて返したのは、オレ。そんな甘えるようなことしてるわりに顔をそらしたのも、オレ。 赤い顔なんか、見られたくないし。 なんていう強がりっていうか、無駄なプライド?いえ、単なる羞恥心ですね。そういうのは、いつだって山下の前では無駄なあがきだって、いい加減気づけばいいんかもしれないけど。でも恥ずかしいもんは恥ずいし、顔だってそらしたいわけです。 「お、公園みっけ。行ってみよーぜ、タイチ」 そんなふうに手を引かれて、ふいに見てしまった山下がかわいくてかっこいい顔で笑うから、 「・・・うん」 見とれてしまう。 余計に赤くなった自分の顔なんて、もう理解できなくなってしまうんだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |