哀情は愛情のように甘ったるくて、 「わたしね、もうすぐ死ぬの」 そういってアイツは俺たちの頭を撫でた。 優しく、愛おしそうに。 リンはその行為をいつものやり取りだと思っているのか、彼女の発した言葉には特に関心は持っていないようだ。「くすぐったいよ」とリンの声が部屋をこだまする。 アイツはそんな俺の片割れを幸せそうに見つめる。悲しそうに、切なそうに。 ふと、俺とアイツの視線がぶつかる。慌てて視線を外した俺にアイツは笑いながら手を伸ばす。 「レンもこっちにおいでよ」 −−―――ガッガガッ 『鏡音リンレン、起動します』 無機質な音声と小さな雑音。それが起動の合図。 うっすらと目を開けて周りを見渡す。片割れはまだ起きていないようでぴくりとも動かない。 どうして俺だけ起動しているのか、アイツはいつもリンの方を先に起動させていたのに。 そう考えていたところで気づいた。誰か、いる。 ぼんやりとその背中を眺めているとあちらも俺に気づいたようで、ソイツは安心したように笑った。 「よかった、ちゃんと動いてる!」 かけられた言葉に身に覚えのない声、姿。 目に入ってきたものはアイツじゃない、誰か。 知らない人間、知らない場所。俺たちに一体なにが起こったんだ? 黙ったまま考えていると、ソイツはあれ?と首を傾げた。 「どうしてリンちゃんは起動してないの?もしかしてわたし壊し…!?」 「………もう一度よく見てください。リンの起動装置オフになってます」 泣き喚かれそうな勢いの彼女にそっと助言してみた。なんで俺が。 彼女は慌ててパソコンを覗き込んだ後、何やら叫んでいる。 俺の助言は効果てきめんだったらしい。もう一度言っとくが、なんで俺が。 では、と一つの咳ばらいを落とし、彼女は綺麗な栗色の髪を揺らした。 「はじめまして、今日からわたしがあなたたちの家族です」 置かれている状況はいまいちよく分からないままだけど、リンちゃん、レンくんと名前を呼びながら、頭を撫でる彼女の行為がいつかの記憶と重なって。 哀情は愛情のように甘ったるくて、 同情のような苦い味がした。 (しばらくの困惑、後に苦笑。) ▼title:空想アリア リハビリ投稿でした。 11/03/02 |