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手を繋いで



歳をとっても、キミと手を繋いで空を仰ぎたい。







手を繋いで







ある晴れた日、沖田総司と神谷清三郎こと富永セイは二人で朱雀野の森に来ていた。
久しぶりに神谷流の練習をするためである。

何だかんだ忙しく二人の時間がとれずに居たが、漸く暇をもらい二人で訪れた。
セイも総司も嬉しそうに話しながら森に来て数刻剣を振り続けた。





「っはぁ!!」
バタンという音を立ててセイが地面に転がった。
休憩も無くずっと手合いを続けていたため、セイは息を乱して倒れている。

それを見て、総司も顔の汗を拭うと刀を仕舞いセイの横に腰掛けた。
「沖田せんせ・・・?」
「疲れたでしょう?少し休憩です。」
総司がそう言うとセイはニコと笑って一度起き上がり小柄を仕舞った。

久しぶりの神谷流の稽古でセイの手にはマメが沢山出来ていた。
総司はセイの手に気がつくとそっとセイの手を取った。

「!沖田先生?!」
急に手を取られたセイは驚いて顔を赤くして総司を見る。

総司はセイの手に出来たマメにそっと触れると、
「痛そうですね・・・・。」
と呟いた。

「大丈夫ですよ、これくらい痛くもかゆくもありません。」
沢山怪我してきたんでなれっこです、とセイが苦笑して言うと総司は眉を寄せて、
「護る人の手、ですね。神谷さんの手は。」
と呟いた。

「護る人の手?」
「ええ。
何も無ければあなたの手は子を抱く手になっていたはずなのに・・・・。」
視線を落としたまま呟く総司に、セイは眉間に皺を寄せて、
「沖田先生?また“新選組に残さなければよかった”なんてこと言い出す気ですか?」
と不機嫌そうに言った。

「いや、そういうわけじゃないですよ。」
「じゃあいいじゃないですか、別に。」
「護らなければいけない存在だと思ってたのに、いつの間にか護る人になっていたんだなぁと思って。」
「それ、褒め言葉ですか?」
「そうですよ。神谷さん強くなったなぁ・・・って思っているんですから。」
「本当ですか??ありがとうございます!」
セイは総司の言葉を聞いてさっきとはうって変わって満面の笑みを浮かべた。

コロコロと変化するセイの表情に、総司はプッと笑うと、セイの手を握って引っ張った。

「わっ!」
引っ張られたセイは驚くが、そのままドスンッという音と共に、二人して仰向けに地面に転がった。

背中に走った軽い衝撃に目をつむっていたセイが目を開けると目の前にはさわさわと揺れる緑の木々と、
その間から射す光と、青々とした空が広がっていた。

ピィーという音を立てて鳥が一羽空を渡っていく。


目の前に広がる自然に息を飲むと、セイはポツリと呟いた。
「街には、争いごとが沢山転がっているのに、こんなにも穏やかな風景があるんですね。
こんなにも、平和に、生きている生き物が居るんですね・・・。」
と。


セイの言葉に、総司はセイの方へ身体を転がすと、セイの手を握ったまま穏やかな表情で、
「いつか、争いごとの無い平和な日々がやってきますよ。」
と言った。

それにセイは首を総司の方へ向けると、
「だといいですね。
あ、でも平和な世になったら少し困ります。」
と言った。

「何故ですか?」
「だって、剣を振る必要が無くなってしまったら私どう生きたらいいかわかりませんもん。」
「ゆっくりこんなふうに穏やかに生きればいいじゃないですか?」
「沖田先生はもしも平和な世になったらどうするんですか?剣もいらない世になったら。」
「そうですねぇ・・・。そうしたら、今まで斬った人の菩提を弔って、生きます。
あ、近藤先生に着いて行くかなぁ・・・・。」
「じゃあ、私も沖田先生に着いていきます!」
「なんでそうなるんですか、平和な世なんですから子を成して家庭を築いて生きていけばいいじゃないですか。」
総司がそう言うと、セイはキッと視線を総司の瞳に合わせて、


「私は、沖田先生のために生きていくと決めました。
最後まで先生を護って死に逝ければいいと決めているんです。
だから、もしも平和な世になっても、先生の傍に着いていきます。」

と真剣な声色で言った。


まさかセイがそんなことを考えているとは思いもしなかった総司は、思わず息をのんだ。

そして、
「もし、私が神谷さんに要らないと言ったらどうするんですか。
邪魔だと告げたら。」
と尋ねた。
すると、セイは苦笑して、
「その時は・・・そうですね、沖田先生に消してもらうか、俗世を捨てて仏門にはいりますかね。」
と答えた。


そこまでセイが深く覚悟を背負って自分の下に居ると思わなかった総司は、セイを思わず抱きしめた。
「馬鹿ですね、神谷さんは。
何で私なんかのために生きようとするんですか。」

「先生が、私の憧れだからですよ。」

「憧れだけでそんなに覚悟できるんですか。」
「近藤局長に沖田先生だって憧れているじゃないですか。同じですよ。」


総司はセイの指に自分の指を絡ませて強く握った。
そして、
「じゃあ、もし平和な世が来たら毎日こうやって手を繋いで私の隣に居てください。
頑張って隣に立とうなんてしなくていいから、富永セイとして隣に立っていてください。」
と言った。

総司の言葉に、セイは顔を歪ませて笑うと、
「承知。隣に立っていても恥ずかしくないように精進しておきます。」
と答えた。


総司はセイの方へ顔を寄せると、額に口付けを落とした。
セイは頬を赤く染めて、くすぐったそうにそれを受けた。




(平和な時代になって侍じゃなくなって、男同士じゃなくなっても、一緒に生きていきたいんですよ、神谷さん。)
(隣で笑っていて欲しいんですよ。)
(歳をとっても、今みたいに手を重ねて、繋いでいたいんです。)



いつから私はこんなに欲深くなってしまったんだろうか。
益体も無い私情は捨てるべきなのに。


(神谷さんが居ると、捨てられなくなってしまいます)
愚かな自分に総司が苦笑を零すと、セイは首をかしげて、
「どうかしましたか?」
と尋ねた。


総司はそれにセイの頭を撫でながら、
「神谷さんには、適いません。」
と笑って言った。

セイはそれに首をかしげた。













それから時が流れて、時代も変わった。









木漏れ日の射す部屋で二人より沿いながら、神谷清三郎でなくなったセイが呟く。
「総司さん。
昔、私は先生が憧れだから着いていくといいましたよね。」
「ええ。」
「あれだけじゃないんですよ、着いていくと言った理由。」
「他にもあったんですか。」
「はい。あの時は言えなかったんですけど。」

「なんなんです?」
「・・・初めて出会った日、総司さんに一目惚れしたんです。」
「火事のときですか?」
「はい。最後まで、総司さんの傍で生きていきたいと思ってしまったんです。」
「一目惚れしたんだったら普通妻にしてほしい、とかになりませんか?」
「妻なら、あの頃は戦場に行く夫を見送るばかりで一番つらいときに傍にいられないでしょう?」
「そうですね・・。」
「私はどんな時も総司さんの傍に居たかったんです。
置いていかれて一人で待つ夜なんて過ごしたくなかったんです。」

総司はセイの言葉を聞いて手を握った。
それにセイは微笑むと、
「だからあの時、手を繋いで隣に立っていて欲しいと言ってもらえて嬉しかったです。
あの頃、先生の為に死に行くことしか考えていなかったから。」
と言った。

「・・・・あの頃はお互い野暮天だったんですねぇ・・。」
「?」
「私あの頃はもう、セイに恋してましたもん。」
「え!?そんな素振り全然無かったじゃないですか。」
「頑張ってましたから。
侍だから、幸せに出来る保障も無い私があなたに思いを告げることは出来なかった。
だから、傍に居てもらう事しか望めなかったんです。」
「・・・・・それでも、嬉しかったです。」
セイは瞳に涙を浮かべて呟いた。


総司はセイの涙を拭うと、
「セイ、あなたが大好きです。この世の誰よりも。」
と言い、キスした。


セイはそれに頷いた。







歳をとっても、手を繋いでキミと生きていく未来。
愛する君が要れば、何も要らない。



end



▼Innocence:Angel 三万打記念フリー作品。
生まれ変わってもずっと一緒って素敵ですよねえ^^
三万打本当におめでとうございます!

09/07/21



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