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星に願いを



▼沖田総司追悼







この夜空いっぱいの星たちが欲しい、と言ったのはいつだったか。あれは確かまだずっと幼い頃に、姉に連れられ夜道を歩いたときだった。

辺りが暗くなってきた頃、ふと空を見上げると小さな丸い形のモノが夜空に輝いているのに気付いた。初めてみる星の輝きに、興奮を抑えきれずにいた私は気持ちを高ぶらせて姉に言った。


「宗次郎はお星さまが欲しいです」


両の手を星空に向かって伸ばす。そんな弟の様子を姉は困ったように眺め笑い、背丈を自分よりもずっと小さい弟と同じ背丈に合わせると頭を撫でてくれた。じんわりとした温もりが伝わる。


「お星さまは誰のものでもないのですよ。夜空に存在するからこそ、綺麗に輝けるのです」


だからね、と姉は私の瞳を真っすぐに見つめた。


「宗次郎も、頑張って綺麗に輝かなくちゃね」










先生、と小さく呼ぶ声がした。ゆっくりと瞳を開けると、強い日差しが視界を遮る。


「いつまで寝てらっしゃるんですか?」


聞き覚えのある柔らかな声が聞こえ、少し首を横へ動かすと私の姿を覗きこんでいる瞳と目が合った。


「今日はね、天気がいいでしょう?すごーく眠たいんですよ」


にっこりと笑って言うと、その大きな瞳は困ったようにため息をついた。


「でも、ここ最近ずっとじゃないですか」

「え、そうでしたっけ?」

「昨日も同じことを言ってましたよ」


ちなみに昨日は雨でしたけど、と愚痴を漏らす彼女はせっせと乾いたばかりの洗濯物を器用にたたんでいく。まだ頭が完全に覚醒していないのか…それとも病の所為なのか分からないが、私はぼんやりとした頭でただ彼女を眺めていた。

ふいに、小さな背中が姉の後ろ姿と重なった。




「夢を、見てたんです」


姉と手を繋いで歩いた道。夏の夜空に輝く、満天の星。


「姉がね、いつも言ってたんです」


“宗次郎も頑張って輝かなくちゃね”

初めは言ってる意味が分からなかった。だけど、とにかく頑張らなくちゃという気持ちだけは子供心にも理解できた。


「今は分かるような気もするんですけどね」

「……」

「精一杯頑張って輝いてきたつもりでした」


下働きとして試衛館に入って、近藤先生や土方さんに会って。剣をとって、稽古して。

いっぱい、いっぱい。


「神谷さんもそう思ってくれますか?」


涙がいっぱい溜まった瞳に向かって問うた。

私は狡い。彼女が泣くのを知っていて聞いたんだから。
彼女は優しい。こんな私のことで泣いてくれるのだから。


「…私、は」

「はい」

「先生は精一杯輝いていたと思います。そして…これから、も」


最後の方は言葉にならなかったのだろう、彼女は小さな身体をさらに縮ませて肩を震わせた。涙でほほを濡らすその顔にそっと手を伸ばして、その雫をぬぐう。

私のために流された涙は、とても温かかった。


「……ありがとうございます」




誰かのために強くなりたい。誰かのために生きたい。
そうやって存在し続けていたから、今こうやって輝いている。

大切なものがあるから、人は永久に輝ける。









▼追悼フリー文でした。



09/05/26(09/05/30)



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