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不器用な鬼



「副長って優しいですよねー」


唐突に言われた言葉。面倒、と思いながらもああ?と悪態をつき後方へと振り返る。


「何が言いたい?」

「別に特別な意味はありませんけど…」


何となく…、と目の前のこのガキは口元に白く細い指を宛て、襖から覗く庭を眺めた。俺もそれに倣って外を見やる。そこから聞こえて来たのは、何とも賑やかしい男共の声。


「あっ総司!それ、俺の団子ー!」

「ふぉっふぁもんでふよおー」

「口にもの入れたまま喋るな、総司。何言ってるのか全然分かんねぇ」


そこにいたのは試衛館からの付き合いである面々で、何やら口をもごもごと動かしている総司の隣で平助が叫んでいる。その更に隣では、新八が総司と平助の間で頭を抱えていた。


「何やってんだ、あいつら」


乱暴に発した言葉は恐らく神谷の耳にも聞こえただろう。神谷は少し微笑んで、素直じゃないですね、と言った。

ムッとして、何がと尋ねようと少し口を開けた時だった。


「あ、神谷じゃん」


総司と睨み合っていたハズの平助の声がその場に響いた。俺は喉まで出かかっていた言葉を飲み込む。そんな俺の様子には気付かず、神谷は庭に向かって声を張り上げ叫んだ。


「何をしてらっしゃるんですかー?」

「皆でお茶をしてるんですー神谷さんも一緒にどうですか?」


平助とは違う柔らかい声色が聞こえたと思うと、神谷は顔いっぱいに笑顔が浮かべていた。


(チッ…分かりやすい奴め)


新たな弟分、しかも厄介者がまた一人増えたことにこっそり溜息をついた。


(まぁいい、世話役は嫌いじゃない)


「小姓の仕事はいいから、早く行ってこい」


少し乱暴に言ってやると神谷は驚いた様子で振り返る。そのまま固まったまま動こうとしない神谷に首を傾げ、もう一度名前を呼んだ。


「いいんですか?」

「今日はもう下がれ。そこでそわそわされても邪魔なだけだ」


さっさと行けと手を振り、追い払う仕草をする。


「…お茶、まだ出してないですよ?」

「さっさと消えろ!!」

「いたっ!」


頭に思いっきり鉄拳を食らわせて叫ぶと、神谷は目に涙を溜め尚も嬉しそうに笑った。


「自分も行けばいいじゃないですかー!」


そして真っすぐとしなやかに在るべきところの元へ走っていく。

俺は静かになった部屋で再び筆を握り机に向かった。


「あ、神谷さん!」

「遅れてすみません、沖田先生!」




外から聞こえてくる声に耳を澄ませながら思う。









(齢三十も越えちまうと性格なんて変えらんねーよ)
(まったく、素直じゃありませんね副長は)



09/04/19



あきゅろす。
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