遠い日の約束
次にこの桜が咲くときには、きっとまた二人で見に来ましょうね。
そう言いながらいつもの笑顔を浮かべた彼の表情がとても印象的で。夢だと分かっていても、この繋いだ手を離したくなかった。
さわり、と室内に柔らかな風が入る。
頬に風が優しく撫でるように掠れ、その懐かしい感触に私はゆっくりと瞼を開いた。
眩しいほどの日差し。柔らかい草の匂い。そして…もう近いのだろうか、春の香り。
そのどこか懐かしい香りに、胸の奥が締め付けられそうになった。
先程の彼の言葉が耳の奥深くに蘇る。
「この桜が咲くときにはきっと二人で」
夢の中で再会した彼の人は昔と同じように笑みを浮かべ、私を見つめていた。その姿は酷く儚く、近くにいるのに遠くにいるような感覚。
――やっと会えたのに、何故そのような表情をするんですか。
その言葉は声になることはなく空中を舞った。だけど、彼は微笑んだまま。
あぁ、この人はいつもそう。どんな時もいつもあの笑みを浮かべる。
彼の人の唇が言葉を紡ぐ。また会えましたね、と再び微笑んだ。
懐かしい声色が鼓膜をくすぐる。その優しい声は昔と変わらないままで。
彼は笑みを深くすると再び桜の木を見上げ、私に語りかける。
「ねぇ、セイ。あの日交わしたあの約束覚えていますか」
さわり、と桜の木が揺れる。薄い紅色の花弁が舞う。
彼は桜から私に視線を戻すと、ふわりと笑った。
「いつか必ずきっとまた、この桜を見に来ましょうね」
約束、とあの日と同じように互いの指を絡める。
――私たちはずぅっと一緒ですよ。
――ずっと、ですか?
――ええ。約束したんですから、きっと大丈夫ですよ。
「ずっと大好きですよ、セイ」
夢を見る。すごく幸せな。
あの人と再び肩を並べ、あの約束の木を見上げる夢。
さわり、さわりと風が吹く。
どうか風よ、私の声をあの人に届けて。遠い彼方にいる彼の元へ。
「―――約束ですからね、先生」
09/01/18
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