蝶
いつからだったのだろう。
自分の隣で輝くように舞う、蝶の存在に気付いたのは。
いつから代わってしまったのだろう。
自分の中の大好き番付の順番が入れ代わったのは。
「沖田先生―っ」
いつものように小さな身体をいっぱいに使い、手を振りながら私の元へと駆けてくる彼女。
私に満面の笑顔を向けて。
いつからだったのだろう。
彼女が自分の隣にいるようになったのは。
いつから考えていたんだろう。
この笑顔は他の誰でも無い、私だけのものだと思ったのは。
貴女はいつか言っていました。
「どんなに空に焦がれても、私は大地の呪縛から逃げられない野の草なんです」
――先生はまるで、風のようですよね。
いいなあ、と羨ましそうに悔しそうに、大空を見上げた貴女。あの時は貴女の言う事が良く理解できなくて、何と言えばいいのか解らなくて私はこう言いました。
「神谷さんが草なら、風はどこに居ても必ず草の元に帰ってこれますね」
神谷さんは寂しがり屋だからなぁ、と更に付け足すと彼女は悲しそうに微笑んだ。
どうしてそんな風に微笑む?
それがあの時は解らなかったけど、今なら少し分かる気がする。
――いつまでも側に――
貴女はそう言いたかったのかもしれませんね。
ねぇ神谷さん。貴女はやっぱり、草なんかじゃありませんよ。
だって、こんな可愛らしい草なんて何処にも生えていません。見たことも無いです。
こんなにもくるくると表情が変わるんですもの。貴女には、花か蝶が一番似合うでしょうね。
でも、私は蝶がいいです。
貴女が蝶ならば、私が風となって貴女の背を押してあげられるから。そして、貴女の側にいて、ずっと貴女を守ることが出来るから。
ひらひらと舞う蝶々。
捕まえてはいけないと知りつつ、手を伸ばす。
捕えられた蝶は嬉しそうに微笑う。
あなたの居場所はここですよ、と――。
08/12/28
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