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告げられた言葉


▼史実バレ注意










「神谷さん、私は労咳なんです」


――何を言われたのか解らなかった。
ただ、目の前が真っ暗になって、どうしようもなく目の前でそれを語る人に抱き締めたくなった。













その日先生はいつも通りに一番隊の皆と稽古をしていました。


「遅い!はい、次っ!」


稽古を付けている時の沖田先生は厳しい。それは隊士からの間でも評判だった。もちろん、私も。

確かに、沖田先生は隊の中でも一、二を争う程の手練だし、それは仕方のない事だと思う。
けれどもそれは、すごく剣術が好きだという証。
沖田先生にとって剣術は己の誠を果たすためには必要不可欠なもので、それはきっと、一生変わらないんだろうと思っていた。




「今日の稽古はここまで。皆さん、お疲れ様でした」


稽古の終わりを告げる優しい笑み。礼をした後、そのまま部屋に戻ろうとした私は先生に呼び止められた。


「神谷さん、今からちょっと行く所があるんで、あなたも着いてきてくれますか?」

「?構いませんが」


そう言って先生に連れられて来たのは副長室。部屋の前で声をかけて、沖田先生に続いて中に入った。


「…来たか」


その場に居たのは、この部屋の主である土方副長はもちろん、他に近藤局長と松本法眼の姿。

何故ここに、タレ目のおじちゃんが?


「神谷さん、こちらにお座りなさい」


何となく感じた違和感をそのままに、私は無言で沖田先生の隣に座った。土方副長が先生と私に向き直る。


「お前をここに呼んだのは理由がある。お前にある特命を出したいからだ、神谷」

「特命、ですか?」


そうだと土方副長が頷く。私はますます首を傾げた。なぜ私のような者に?疑問が浮かぶ。


「…失礼ですが副長。私でなくともそれに相応しい方がいるのではありませんか?」

「いや、お前でなくては駄目なんだセイ」

「……え?」


松本法眼の言葉に、耳を疑った。そんな私の心中を悟ってか、全て話したと法眼がバツ悪そうに私に言った。


「話を戻すが、先程も言ったがお前以外にこの特命を任せられる人物はおらん。引き受けてくれるか?」

「…それは隊を抜けろ、ということですか」

「そうだ」


そう短く返事をして副長は隣に座る局長と法眼の二人と顔を見合わせ、何かを言いたそうに俯いた。

ただならぬ事態でも起きたのか?

またひとつ、私の脳裏に疑問が浮かんだ。そう思った矢先だった。



「土方さん」



長い沈黙のあと、私の隣で座っていた先生が手を挙げました。


「あとは私から言います」

「総司っ、」


まだ何か言いたそうな土方副長にくるり背を向け、先生は私を真っ直ぐ見据える。そしてゆっくりと口を開いた。



「神谷さん、私は労咳なんです」





一瞬、何を言われたのか分からなかった。



「…………え…?」


何の前置きもなく突然告げられた言葉。戸惑う私を見て先生はもう再度同じことを言う。


「私は労咳なんですよ」








「………嘘だ」


静かな部屋の中で私の声だけがポツリと響く。



「嘘じゃありませんよ。全て、真実なんです」


悔しそうに哀しそうに先生が呟いた。







ねぇ、沖田先生。

先生は本当に労咳なんですか。本当は何かの間違いだったんじゃなかったでしょうか?

だって、沖田先生は今日も昨日もその前だって元気だったじゃないですか。




なのに、何故ですか神様。
なぜ、彼なんですか。
なぜ、こんなにも優しい彼の命を奪おうとするんですか。


なぜ――?






「神谷さん?」


ああ、先生が呼んでいる。だけども声が出ない、上手く呼吸が出来ない。視界が、暗くなる。


「神谷っ!!」


薄れいく意識の中、最後に見たのは、慌てて駆け寄ってくる副長たちと私を泣きそうな表情で見ている沖田先生の姿だった。










(ああ、どうして、)
(こんなにも吸う息が酷く冷たいの)



▼ログを再びリメイク。


09/12/12



あきゅろす。
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