心に染み入る優しい声
ふと気がつくと、私は一人真っ白い世界に立っている。
――ここは何処だろう?
そう思いながら自分の周りを見渡す。
――何も…無い。
先程まで見ていた筈だった草花や木、頭上に広がる青い空。そして、草が憧れた存在"風"。それら全てが失くなっていた。
(孤独)
解ってる。確かに、私は今ひとりぼっちだ。
つい先程だった。
私は何よりも大切な…死んでも失いたくなかった人を失くした。
沖田総司という"風"を―。
「…ふっ…っ…ひっく…」
守りたかった。彼―…沖田先生を。
失いたくなかった。私の"誠"だった、彼の命を。
叶えさせてやりたかった。
『近藤先生の為に剣を振るうんです』と笑った、彼の思いを。
「沖田、先生…っ」
涙が頬を伝って、白く輝く地面にポタリと落ちた。
涙を拭ってくれた人は もう居ない。
愛しい人の声さえも もう聞こえない。
もう一度 ポタリと涙が地面へと落ちて、涙の跡を残す。
「沖田先生…」
『―――神谷さん』
不意に懐かしい声が耳に響く。ハッとしてゆっくりと後ろを振り向くと、そこにはいつもの笑顔を向ける愛しい人の姿。
『神谷さん』
再び、私の瞳に涙が浮かぶ。そんな私を見て彼は一つ、困ったような笑みを漏らす。そして一歩、また一歩と私に歩み寄り、優しく頬を撫でた。
『悲しまないで下さい。私はどんな時も、あなたの側にいますから』
目を開けると、そこは沖田先生の部屋だった。
しばらくぼんやりとしていると、ふと、何かを握っている事に気付く。
握っていたものを暫く眺めて、私は微笑んでソレを抱きしめた。
「…沖田先生」
その声に応えるように、セイの胸の中の総司の大刀が「かたん」と揺れ、虚ろだった少女の瞳に見失っていた光が再び宿った。
「…行ってきますね」
彼が叶えることの出来なかった想い、願い。彼が再び戦場に戻ることを信じ戦い続けている仲間たち。
そうだ。私にはまだやらなければならぬ使命がある。
行こう、仲間の元へ。
彼もきっと、それを望んでいる。
『お行きなさい。大丈夫、貴女は一人ではないんですから』
心に染み入る優しい声
風が吹いている。木々が、揺れる。
誰もいない部屋の中、一つの簪がそっと置かれていた。
「貴女に似合うと思って…」
余計なことだと分かってますけど。そう言って青年が少女に渡した代物。
「…ありがとうございます」
こうしてまた、一人の武士が戦場へと旅立っていった。
▼以前のログを新たにリメイクしてみました。
09/11/16
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