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戻れない昨日があるから、私は前へ進むよ



昔からそうだった。欲しい物を手に入れても直ぐに飽きて捨ててしまう。それが大切な人との想い出だとしても例外じゃなかった。
そうしている内に、友達を失い周りにいた人々がいなくなっていった。仕方ないんだ。だって、この状況を作り上げたのは紛れも無い私。本当に信頼してくれる人も小数だけどもちゃんと居たし、私には十分過ぎるほどだったんだ。

いつからだろう。心の中にゴミ箱を作ってしまったのは。








「あの、」


暗い廊下を歩いてたら遠慮がちに声を掛けられた。そして首を傾げた。おかしい。今私がいるこの場所は滅多に人が来ないはずなのに。とりあえず、声がした後方へと首だけで振り返った。


「はい?」

「すみません、道を尋ねたいんですが」


ちょっと迷ってしまって。そう言って笑ったのはまだ15歳ぐらいの男の子。
白髪の童顔、男っぽいとは言えない少し高い声は、彼を柔らかそうな印象に見せた。




「あ、もしかして科学班の人ですか?」


食堂まで行けば後は分かるからと言われ、そこまでの道程を歩いていた時、彼にそう尋ねらた。
確かに、私は科学班の一員だ。ただ、科学班に所属している人でも私の存在を知る人は室長やリーバー班長を含め極少数だから彼が私の所属を言い当てたのは酷く驚いた。


「な、なんで…?」

「何となくですよ。貴女すごく頭が良さそうだから」


ははっ、とお腹を押さえ笑い声を上げる彼。…私の態度がそんなに面白かったのか。え?あれ、私なんか変なことしたっけ?


「ぼ、僕はアレン・ウォーカーっていいます」


よろしくお願いしますね、と微笑みながら言葉を付け足す彼に少なからず心臓が高鳴るのを感じた。



私はその時、アレンなら自分の中の馬鹿な癖を取り去ってくれるかもしれないって思った。彼なら、室長達と同じように有りのまま私を必要としてくれる。

何かが頬に流れるのを感じるのと同時にアレンの手がすうと目の前に伸びてきてそっと私の涙を拭ってくれた。
それがきっかけだったのか、私はそのまま彼の胸に抱き着くと大声を上げて泣いた。




戻れない昨日があるから、私は前へ進むよ




心のゴミ箱を作ったのは、失った時の哀しみに押し潰されてしまわないように。



▼「SkyLine」さまに提出。

09/08/15



あきゅろす。
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