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その優しさは無残にも、あの残酷さと比例をしていた



「幸せってなんだと思う?」

普段とは違う哀しそうな声で不意に彼女が尋ねた。その瞬間、騒わがしかった談話室が水を打ったように静かになる。


「ごめんね、何でもないの」


一瞬困ったように笑って一言呟いた後、彼女は席を立ち部屋を出て行った。パタンと談話室のドアが閉まる。背中越しに見えた彼女の表情は今にも泣きそうだった。


「どうしたんさアイツ」


彼女が立ち去ったドアを眺めてラビが呟いた。









記憶の中の彼女はいつも笑顔の絶えない明るい人だった。
人の気持ちには敏感で誰にでも優しく、知らない人とでもすぐに打ち解けるような人で。だからなのか、僕たちは彼女の泣いている顔とか落ち込んでいるところなんて見たことがなかった。


「…ここにいたんですか」


談話室から出て、廊下のずっと奥の突き当たりに彼女はいた。
顔を覆い隠すようにしてその場に座り込み、小さな背中を丸めてただ俯いていた。


「みんなが心配してますよ。戻りましょう」


話しかけてみても反応がない。さて、どうしたものかと頭を捻らせて考えていたら、つん、と何かに引っ張られた。よく見ると、それは彼女の手で、彼女の小さな手が僕のシャツの裾を引っ張っていた。


「…アレンはさ、」

「うん」

「幸せって本当にあると思う?」


彼女の前にしゃがんで視線を合わせようとするが、まだ彼女の顔は隠されたままで。


「わたしはね、幸せっていうのが分からないの」


普段みんなの前で笑っているわたし。冗談を言ってラビや神田をからかってるわたし。リナリーとお喋りをしたり、科学班の人たちやアレンと一緒にいるわたし。


「どれが本当の自分なのか分からなくなっちゃった」


どれが本当のわたし?
そう考えたらキリがなくて。もし、いつもの自分が本当の自分じゃなかったら?今までのわたしは偽りのものだったの?わたしの幸せって?


「そう思ってしまったら胸が張り裂けそうで…どうすればいいのかわかんなくて…」


寂しい寂しい寂しい。心が寂しくて哀しくて仕方がないの。
そう呟く彼女に、僕はそっと小さな手に自分のそれを重ねた。ビク、と彼女の身体が小さく跳ねる。


「どれも本当の貴女ですよ」


ゆっくりと背中を撫でてあげながら続ける。


「君の知らないところを見たとしても、誰も拒絶したりなんてしませんよ。」


だからもっと仲間を頼りましょうよ、と笑う彼にわたしの心は助けられた気がした。



「僕はずーっと、貴女の傍にいますよ」




その優しさは無残にも、あの残酷さと比例をしていた




孤独なわたしに光りを与えてくれた。でも同時に、臆病なわたしは貴方を失うのが怖くなってしまったんだ。



▼「アスチルベ」さまに提出。

09/07/31



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