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臆病者の白昼夢


ねえ、知ってた?
人間は所詮、独りでは生きていけないんだよ。

絞り出した声は思っていたより情けなくて、何だか物悲しさを感じた。



「…リンク」


いつの間にか隣にいた彼を呼んだ。
ゆっくり近づく彼と私の距離、訝しんだ彼の視線。
私はもう、止められない。


「…、」


彼は気づいているのだろうか。
…出来れば、気づかないままでいてほしいけど。
これは私の我が儘だから、私は仲間に頼ることのできない臆病者だから。

教団の何処にも属さない彼だから、彼になら。


求めるように手を伸ばした。
意味もなく彼の髪を撫でた。

一筋だけ、涙が零れた。



「……ふ…っ」



大好きな笑顔が消えたあの日、教団は嘘のように静まり返った。
もう名さえ耳にすることがなくなった。
あれほど明るくて賑やかだった教団の人間が、どこか暗く悲しそうに見えるものだから不思議。

温もりを感じられた場所は無と化し、残ったのは憐れな人形のみ。



「また、泣いているのですか」


抱きしめられたいつもと違う温もりに声は出さずただ頷いた。



辛いと言ってしまえたらよかったのだろうか。
そうしたら、仲間と泣くことが出来たのかもしれない。

私は強いからと大丈夫と信じて疑わなかった自分に非がある。
必要以上の交友を求めなかった。彼を除いて。


「寂しいなら強がる必要もなかったでしょうに」


苦しいよ、悲しいよ、もどかしいよ。
私にはアレンがいた。
アレンには私のほかに仲間がいた。
みんなを愛していた。
彼は私を愛してくれたけど、結局は仲間を庇って消えてしまったのだ。

アレンが愛した仲間は彼の死を悲しんだ。
たくさんの人が泣いた。
みんなが彼の死を悼んだ。


「馬鹿ですね、貴女は」


皮肉に呟く一言が銀灰と重なって見えた。
色素の薄い金色の背中越しに彼の遺した金のゴーレム。

残された短い音声と抱きしめられた温もりに、少しだけ背中を押された気がした。

だけど、どうしても後悔は消えなかった。




ねえ、リンク。
私が死んだら君だけでも悲しんでくれませんか。

独りは嫌です。
でも自ら命を絶つ勇気はないのです。


優しい君を利用しようとする私をどうか許してください。





10/04/24



あきゅろす。
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