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さよならと応えた指先




もしもし、こんにちは。わたしの声が聞こえますか。今にも溢れ出してしまいそうなこの想いがちゃんとあなたにへと届いていたらいいな。

今なにをしていますか。変わりなく日々を過ごしているのでしょうか。


あなたの側を離れてからもう随分と経ちました。時の流れとは早いものです。
無理をしていませんか?ちゃんと眠れていますか?泣いてはいませんか?
わたしのいる場所からはあなたが見えないので不安が積もるばかりです。


教団の皆は元気でしょうか。またコムイさんが悪さしてない?そう考えただけで科学班の皆にお疲れ様と励ましてあげたくなりました。皆の疲れた顔が目に浮かびます。リナリーや科学班だけじゃ大変だろうからアレンも助けてやってね。あ、なんか想像しただけで笑えてきた。


そうそう、ずっとアレンに聞きたいことがあったの。言えないままだったから手紙に書きます。

もしもあなたにこの声が本当に伝わっているならば、どうか教えて下さい。何も聞かず何も知ることもなくただ応えて。


君は幸せでしたか?


多くを望んだのではないのです。ただ純粋に共に生きたいと願っただけだったんです。


目を閉じれば今でも君の顔が浮かびます。大好きなみたらしを頬張る姿、笑顔、寝顔、大きな背中。離れているはずなのに温かな体温を確かに感じるのです。


あなたは言いました。生きることは護ること失うことの繰り返しだと。だけど、こうも言ったね。護るべきものがある限り大切なものがある限り、希望は消えないんだと。
わたしが生きていく為の証拠が欲しいと言えば、あなたは"僕がその証拠になりますよ"と言ってくれた。…すごく嬉しかった。



この世を生きていくというのは本当に辛い。でも、あなたとなら。わたしを暗闇から救ってくれたあなたとなら、それさえも希望に変わると信じることができました。これから先もこの願いは変わりません。これでも感謝してるのよ。

『哀れなアクマに魂の救済を』

そう言ってあなたがこの世の罪全てを抱え込むというのならわたしはあなたの全てを包み込みましょう。あなたの帰る居場所になりましょう。
少しでもあなたの苦しみを和らげてあげられるように。


あなたが果たさなければならない使命。ならば、わたしの使命はあなたの隣にいることだと思うのです。そんな存在になれたらと切実に願っています。




好きです。あなたが。とてつもなくあなたが愛しいのです。
もっと早く言っていればよかった。恥ずかしさもプライドも色んな体面も何もかもを捨ててあなたに伝えたかった。


――…ごめんね。


忘れないで。いつもわたしは優しいあなたの側にいます。形は違えどわたしは今まで通りアレンの隣にいるから。

だから、お願い。出来ることなら二人の想い出と時間に蓋をしていて。想い出という箱に鍵をつけて開くことがないようにして欲しいの。矛盾しているけど。

いつか、また。わたしが君の前に現れるその日まで、わたしのことは忘れて笑っていて下さい。涙を流すことはしないで。
笑顔はね、道標になるのよ。どんなに苦しくてもどんなに辛くても必ず希望に繋がります。
だからアレンも、また一緒に歩いていける日が来るまで立ち止まらないで。きっとまた会える。


――…ね、アレン。











ガツン、という音が耳に響いた。額にものすごい痛みを感じて瞼を持ち上げてみるとすぐ目の前のテーブルと睨めっこ状態。どうやらこのテーブルで額をぶつけたらしい。


「いった…」


痛む額を摩りながら周りを見渡す。ここは談話室。この空間には僕以外誰もいない。


「ゆ、め?」


なんだか懐かしい夢を見た気がした。隣でティムが心配そうに僕を見つめている。


「……」


訳も無く涙が溢れた。いや、理由なんてとっくに分かっていて、ただそれを信じられなくて。涙が流れたのはきっとこんな理由。


夢に彼女が出てきた。もう会えないと思っていた直後だった。再び彼女の姿が見れたそれだけで十分。…なのに、彼女は僕に優しく微笑んだ。


『好きよ』


失って初めて聞いた彼女の本心。生前の彼女なら恥ずかしがって絶対に言ってくれなかった言葉、それはあまりに綺麗で哀しいものだった。


『また、会える』


恥ずかしがり屋の彼女とは思えない落ち着きぶりに僕は驚くばかりでただ彼女を見つめる。声を出そうとしても叶わないのだ。


『信じて』


行かないで、消えないで、置いてかないで。
僕を独りにしないで!!

光に薄れいく姿に視界がぼやける。無意識に流れた涙を優しい指がそっと拭う。コツン、と額が重なった。


『泣き虫』


幼さを残したあどけない顔が哀しみに歪んで、光りに溶ける。ゆっくりゆっくり、永遠を感じてしまうような空間の中で君は笑った。


『ね、信じて』


吸い込まれそうな瞳に僕の顔が映る。情けなく涙を流した僕の顔はありえなく不細工だった。目は腫れて、周りがよく見えない。僕は知らない。何故、彼女が死を選んだのか。でも、それでも、心は信じられないほど穏やかで。






(僕は君にさよならをする決意をした)



▼title:空想アリア

10/02/06



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