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澄み渡る蒼、手を伸ばせば届きそうな空


空に恋い焦がれた少女がいました。
彼女の傍らには一人の少年。
少年と少女は何処に行くときも一緒、幼い頃を共に過ごした唯一人の存在だったのです。




暗い暗い風景の中、少女は涙を流していました。手を上空へと伸ばして言います。――ああ、世界が歪んでしまった。真っ黒の世界、そう呟いては焦点の合わない瞳で空虚を見つめます。
彼女の瞳にはもう光は映っていなかったのです。

絶望、後悔、恐怖。
様々な感情が波のように彼女に襲いかかりました。


「……」


耳を澄ませば誰かの声。身体中を支配していた恐怖が和らいだのを感じ、少女は銀灰の瞳の気配を察しました。
アレン、と少年に呼びかけます。力無く伸ばされた手を優しく包み込み、彼は少女の声に耳を傾けます。



『だいじょうぶ』



一言だけ。その言葉だけで少年は少女の言おうとしている内容を理解しました。



わたしはいつも側にいるよ。
ただ姿が見えないだけで、わたしはいつも貴方を見守っているからね。

置いていくわけじゃないんだよ?ちょっとの間、眠りにつくだけよ。

だから、こわくない。



少女は再び空を仰ぎました。相変わらず視界には何も映らない。だけど、今日の空はきっと青いと信じていたい。わたしの中にはまだ光が残っている。弱々しくてもいい、この光、この想いだけは。


『…もし、生まれ変わることが出来るなら』




――空になりたいなあ。

















「…こんにちは」


人目を忍ぶように置かれた小さな墓石。彫られているのはあの少女の名。


「今日の空は綺麗な青色ですよ。君が好きだった天気だ」


手を伸ばせば届きそうな快晴の日は不思議と心地がいい。僕は近くの木陰に腰を下ろした。




――大丈夫、大丈夫だからね。



彼女の声が不意に頭を過ぎる。頬にすうっと一本の筋が通る。
もう何度涙を流しただろう。何度この空に恋い焦がれただろう。



――空になりたいなあ。



「僕だって空になりたかった」


一人だけで狡いですよ、と呟いて空を仰いだ。彼女の言葉、声、笑顔。全てを思い出す度、涙が止まらなかった。


「…本当に狡いひとだ」



あの日からずっと、少年の耳には少女の優しい声が響いているままです。








(アレンはわたしの光なの)
(だからね、どうか)

(生きていてください)





▼title:千歳の誓い

10/01/09



あきゅろす。
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