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そこに世界はないだろう?


地平線がどこまでも続いているような錯覚に襲われた。


しろい。そう呟いて小さく息を吐き出してみた。
まっしろ。今見えている風景が色が全て。
さむい。言葉は声に出さないまま空を仰いだ。昨日と同じように青いと思っていた空はどんよりと悲しそうに見えた。


はあ、と冷たくなった手に息を吹きかける。雪でも降りそうな天気だなあ、とぽつり。
ああ本当にさむい。なぜだと思い己の身体をよく見てみると、こんな寒空の下だというのに僕は普段通りの格好をしていた。


「…あれ、」


ふと思った。ここは何処だ?
どうしてだろう、先程からどうも頭が正常に働かない気がする。ああ、ついに脳まで寒さにやられたか。


ま、いっか。とこれまたぼんやりと呟く。考えることが億劫になっていて、焦りさえも感じない。


しんしん、と辺りに降り積もる雪。
いつの間にか、さほど高くないブーツの丈あたりまで積もっていた。
軽く足を上げてみる。ズボと音をたてて僕の足が埋まった。歩くと当たり前に足跡が着く。


「……」


このまま進めば残るのは自分の足跡だけなのか。ちょっとした疑問が浮かんだ。もしかしたら、この先には街があるかもしれない。でも、どこまで行ってもやっぱりこの地平線以外は何も無いのかもしれない。期待と不安が身体中を駆け巡る。


ずきん、と頭に鈍い痛み。
何か大切なことを忘れているような気がする。考えてみても何も思い出せない。もやもやして気持ちが悪い。


――進んでいけば分かるのかな。


立ち止まってはいけない。そう言われているような気がして僕は一歩足を踏み出す。さく、と軽く音がしてしばしの優越感に浸る。もう一歩、とした瞬間だった。






“――…いかないで”





ぴたり。優しさを孕んだ柔らかい声が耳に響く。
今来た道を振り返るが、そこには僕の足跡のほか何もない。しかし、妙に優しく響いた声は、だんだんと近づいてくるように大きくなっていく。



“――…おねがい…っ”



ぽたり。空から小さな冷たい雫。
雪ではないこの雫は触れてみると不思議とあたたかくて、心の奥底へとじんわりと染み渡っていく。



“――…アレン…っ”



はっとして再び後ろを振り向いた。ドクンドクンと心臓が警告音を鳴らす。


戻らなければ、彼女の元へ。
ここにいてはいけないと誰かが僕に囁く。

彼女が泣いている。
アレンアレンと泣きたくなるほど悲痛な声で叫ぶ彼女、それは霞んでいた僕の視界をクリアに変えていった。












「――…アレン!」


目が開けると涙で頬を濡らす君が眠る。僕が傷だらけの腕で頬へと手を伸ばすと瞳を揺らし子供のようにわんわんと彼女は泣き崩れた。







誰もいない、静かで真っ白な世界には守るべきものがなかった。
だけど、この灰色の世界には確かに大切なものは存在している。冷酷で残酷な世界だけれど、光は輝いている。

その光がある限り、僕らの希望は消えない。


「ただいま」






▼title:透徹

09/12/31



あきゅろす。
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