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そうだね、例えばの話よ


世界はいつも残酷なのに、時々びっくりするくらい優しい表情を見せるんだ。だけど、私はそんな世界が嫌い。



何でそんなこと言うのかって?
そうだね、例えばの話よ。



私たちが想像する世界ってさ、大きくて広いイメージがあるでしょう?
世界の為、世界の為って私たちは頑張っているけど、所詮エクソシスト数人で救えるほど世界は狭くないし、手なんて到底届かないと思うんだ。
絶望して涙を流す日もあるし、救えなかったと嘆く日もある。
神さまも酷いよね。こんな広い世界を私たちに守れって言うんだもの。この現状を造り上げた張本人は自分なのに。


私はそんな無責任な神さまなんて信じないわ。
私は自分の大切な人たちを守る為にエクソシストになったのよ?会ったことも話したこともない人に忠誠なんて立てられないし、この戦争のある世界を造り出した神さまなら尚更無理な話。


ねえ、私の言いたいことが分かる?
つまり私は貴方のために生きて戦いたいのよ。
大切なものを守って死ぬのもありだと思う。だって大切な人を守って死ねる人生なんて素敵でしょう?…あ、リナリーたちには内緒ね。きっとすごく泣いて怒ると思うから、神田にだけよ。







「神田ー、私今から任務だって」

「それがどうした」

「心配してくれないの?」

「…なんで俺が」

「いいじゃん、ケチ!」

「言っとけ。どうせ、すぐ帰ってくるだろうが」

「びっくりするくらい早く帰ってきてやるんだから!!」



狭いようで、残酷なほど広い世界。
冷たいようで、本当は優しくて不器用な貴方。

まるで正反対なものだけど、貴方はそんな世界に似てると思った。
だから、嫌いなれないのかもしれない。なれなかった。













「任務終ー了っ」


任務対象だったアクマを全て破壊が完了した。苦戦した任務が終わったことに安心しているとお昼ご飯を食べていないことに気付く。ホームでジェリーさんの作ったご飯を食べたいなあ、と幸せな気持ちでいたのも束の間。
何かが、立ち尽くす私の横を掠めた。


「何事かと思ったら…こんなお嬢さんがねえ」


褐色の肌に額の聖痕。途端に力が抜けていく身体。
脳裏に、最悪の結末が過ぎった。


「――…よい夢を」















身体中が悲鳴を上げ、視界がぼやける。辺りには血特有のさびついたような鉄の臭い。
やばい、私死ぬかも。など本気で思い始めたころ、じんわりと瞳に涙が溜まったのが分かった。そして浮かぶのはあの長髪の彼。


「…か、んだ」


いつも通りに帰って、いつも通りに報告書を出して、アレンくんと一緒にあんたに向かって「バ神田!」とか言ってやるつもりだった。…つもりだったのに。


「っ神田…!」


ああ、私はまだこんなにも生きていたかったなんて、死にたくなかったんだ。


会いたくて恋しくて切なくて。悲しくて哀しくて、どうしようもないとわかっていてもこの感情だけは止められなかった。









もしも私が大切なものを守って死ぬなんてことになっても、私はきっと後悔はしないと思う。
そうだなあ、多分ね。そのとき私はアレンくんやリナリー、ラビや神田、貴方の幸せを願いながら眠りにつくの。

……ああ、でも。

やっぱり叶うことなら貴方と同じ時間を生きていきたかったなあって後悔するかもね。




▼神田で悲恋ヒロイン。

09/12/04



あきゅろす。
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