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さようなら/夏目、友人帳



私には幼い頃から普通の人が見えないものが見えている。それは幽霊や妖怪、そういわれている類いのモノ。
そして、多分、それは私だけじゃない。前を歩く同じクラスの男の子。夏目くんも私と同じように見えている……はず。
見えている、というより感じて驚いているのかもしれない。と思いながら夏目くんの背中を見つめる。



〈「主、」〉
『ん』
〈「アヤカシが寄ってきている。右に曲がって歩いた方がいい」〉
『……ん』



陰から聞こえてくる声に鼻を啜るフリをしながら返事をした。
右に行けば、アヤカシに会わなくてすむ。それはつまり、左に行くと危ないって意味。はぁ、とため息をついて右に曲がる。

…前を歩いていた夏目くんは左に曲がっていってしまった。



『……影鬼…』
〈「主?」〉
『もしかして、夏目くん…危なくなる?』
〈「本当に見えて、気配を感じているのなら……喰われましょう」〉
『……行くよ』
〈「主ッ!」〉



咎めるように私を呼ぶ影鬼。私はその声を無視して歩いてきた道を戻り、分かれ道まで戻ってきた。息を呑んでから、ゆっくりと夏目くんの行った道を進む。



〈「主!なりませぬ!
いつもの低級ではない!」〉
『分かっているわ。でも、』



本当に見えるなら余計危ない。だから、行くのよ、と微笑んでそう言った。
陰から呆れたかのようなため息が聞こえて、笑った。



「や、やめろッ!」
〈「人の、子…くら、う」〉



林の中に入って、あちらこちらに目を配らせていると夏目くんの声が聞こえた。切羽詰まったような声。
慌ててそっちに向かうと座り込んでいる夏目くんと口を大きく開けたアヤカシ。



『影鬼っ!』
「…ぇ、」



影鬼の名を呼びながら、夏目くんを庇うように前に立つ。
口を開けたアヤカシをただただ睨み付ける。



「まと、ば……さん?」
『大丈夫』



私の大嫌いな苗字を呼び、ただ私を見つめる夏目くん。私はそんな夏目くんに笑みを向けた。
大丈夫、と言うように。微笑みを夏目くんに向けてからすぐにある言葉を呟くと私の影から出てくる黒い髪の鬼のお面した男がアヤカシへ火を吹く。



〈「祓い屋アァァアアア」〉
『私は祓い屋じゃないわ、アヤカシ』
「…ど、うし……」
『夏目くん、今は大人しくしててね。影鬼!』
〈「わかっております」〉


ひぎゃいぁああ、と悲鳴を上げて焼かれるアヤカシ。その声を無視しながら、座り込んでる夏目くんの手を掴み、その場を離れる。



「ま、まと…ば、さん!」
『黙って、夏目くん。今は逃げることに専念して』
「…っ、みえ、」
『私は見えてるよ、妖怪、アヤカシ、幽霊。そして、祓い屋一門、的場の人間よ。夏目くん』



祓い屋一門、という単語に目を見開く夏目くん。多分、会っているんだろう兄に。
私の大嫌いな兄に。



「は、ぁはぁ…ッ」
『古いけど、ある程度のアヤカシは入ってこないわ』



大丈夫よ、と言うと夏目くんは安心したように息をつくのが分かる。私も息をついてから、上がってきた階段を見つめる。



「さっきの、本当なのか?」
『祓い屋のこと?それなら本当だよ。嘘ついても意味ないわ』



そう言ってから、私はゆっくりと影鬼を呼んだ。すぐに現れた男に驚く夏目くん。



〈「焼き払った」〉
『そう。他のアヤカシは?』
〈「もういない。私の気配に怯えて隠れた。今なら安全に帰れる」〉
『分かった。……夏目くんの迎えが来たみたいだし、私達も帰ろう…』



大きな影が射すのが分かり、そう呟いた。夏目くんがせんせ、と呟くのを無視するように私は影鬼の方へ向かった。



さようなら
(また、いつか)(的場さん!)(明日、気が向いたら話そうね)(ま、待って!)






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