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軍事機関4 進路相談 
 軍事機関T/U/V/(W)


 ここはティレニア軍事機関。まだコウが軍人候補生として修行していたあの頃。シスター科、魔導科、戦士科と、色々見学してみたものの、どこも自分に合わないと感じたコウは一人、機関上階へ来ていた。

 ティレニア軍事機関の本館は教官や上級官の特別室となっており、ここに巨大図書館や本部が置かれている。普通に暮らしていれば縁のない場所なので若干緊張するが、今のコウには周りの様子を気にする程の余裕はなかった。

 本館上階、軍事機関本部にて、ふらりと現れた生徒を見た者が慌てて走り寄る。

「コウ!? どうかしたのか!」

 その人は美しい赤髪を散らしていて、スカイブルーの瞳が彼女を優しく見せた。

「クリスさん……相談室ってどこですか」

「なっ……何か大変な悩み事があるんだな!? 分かった、こっちへ!」

 クリスは気が動転している様で、形振り構わず一室を用意した。勿論今までそこにいた人間を無理やり追っ払って。

「それで、一体何をお悩みなのですか?」

 二人きりになった途端、クリスの口調は一変した。こうも鮮やかに態度を変えられては、見事としか言い様がない。

「はい、もうどうしていいかわからなくて……私って何に向いてるんですかね」

 突飛な事を言われて考え込むクリスだが、ぱっと顔を上げる。

「コウ様は指導者になられるのですから、幹部候補生を目指しては如何でしょうか」

 さらりと言うので「はい」と即答しそうになったが、次の言葉により蜘蛛の糸はぷつりと切れた。

「12年制ですけど」

「……へぇ、大変そうですね。興味ないです」

 するとクリスは更に難しい顔をして本気で悩む。ちょっと悪いかなとも思うが、12年も経った頃には時代が変わっていそうだ。

「では、何もしない。何も考えない。これはどうでしょうか」

「…………は?」

 彼女がいい加減な事をいうとは思えない。とすれば今のは本気で? 何も考えなければ、私はどうなるというのだろう。

「貴女は世界が動く様を見ていてください。そして必要な時に手を差し伸べれば良い。ただ何を知ろうと焦らず……」

「惑わされずに、でしょ?」

「コウ様……」

 先日の事を思い出し、勝手に一人で吹き出す。

「レッド先生も同じ事を。そう……今はそれでもいいのかな」

 ほっとした様な表情を見せるクリスだが、直に険しくなった。どうしたのかと尋ねると。

「レッド教官と会ったのですか」

「はい。というか剣を習いに行きました」

「剣術を!? それで……無事で――」

「あ、でも途中で帰りました。真面目にやってくれなくて」

 困った顔をするコウに複雑な心中のクリスは、目を反らして不機嫌そうにした。

「クリスさん?」

「――いえ、何でもありませんよ」

 また、ころっと態度を変えて優しく微笑む。彼女の得意技なのかと思ってしまうが、追求はせずに私は相談室を出た。他の事務官が仕事をする中で、一人見知った人を見つけて声を掛ける。

「マリアさん、こんにちは」

「まぁコウ様。何か御用でしょうか」

「いえ、もう済みました。さっきまでクリスさんと相談室に。それじゃこれで」

「……あ、はい」

 内情を言わないコウを見て、マリアは未だ相談室に篭るクリスの元へと向かう。部屋の扉を開けるとクリスが驚いた様に顔を上げた。

「コウ様がどうかなさったのですか?」

「いや、とり合えず今は大丈夫だ。だが、あいつにはきつく言っておかなければな」

「あいつ?」

 聞き返すマリアに、彼女の逆鱗に触れる男の名を吐き出すクリスは、その後直に本部を出てとある修行城へ向かう彼女を止めはしなかった。

 数分後、とある修行城にて、平手打ちの音と男の悲鳴が機関を揺るがせた。




 [完]



マリア「コウ様に危険な真似はさせるなと言ったでしょ――!」

レッド「うわわっ……不可抗力だ――バチン! ぐふっ」


 (C)りひと 2008-1-12




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